虎竹の里の風
虎竹の里の竹を使い、団扇を作ったらどんなものができるだろうか?数年前から、ささやかではありますが取り組んで来た国産の団扇作り。竹はずっと日本人の近くにあって寄り添ってきた素材、身近な日本の竹をほんの少しでも見直してもらえたら嬉しい。そんな思いで今年は新しい虎竹和紙団扇(うちわ)が誕生しました。地元高知の土佐和紙職人さん、うちわ職人さんと力をあわせ、自分達にしかできない自然な涼をお届けします。
日本で唯一 土佐の虎斑竹(とらふだけ)
「虎斑竹(虎竹)」は淡竹(ハチク)の仲間に分類され、高知県須崎市安和の虎竹の里でのみ、稈の表面に虎模様が浮かぶ不思議な竹です。この模様は、幹に付着した寄生菌や潮風の作用によるとの学説もありますが、科学的には未だ解明されていません。実際に各地方に移植を試みましたが、何故か模様が付く事はありませんでした。
明治44年、当時日本最高の植物学者達が絶滅寸前の虎斑竹の保護のために、建白書を時の政府に提出しました。これが今日の天然記念物条例発布の導火線となり、天然記念物保存法が発令され虎斑竹はその第一号の指定を受けたのです。
イギリスBBC放送も取材に来た「ミラクルバンブー」
左の写真が、自然に生えている状態の虎竹です。この虎竹をガスバーナーで炙り、竹自身から出る油分で拭き上げると右の写真のように虎模様がはっきりと浮かび上がります。この珍しい虎竹(Tiger Bamboo)を取材するためにイギリスBBC放送までもが虎竹の里を訪れ神秘的な虎竹に「ミラクル!」を連発されていました。
竹職人達の想いが繋ぐ虎斑竹
竹は秋から1月下旬までが伐採のシーズンです。虎竹もこの期間に一年分をまとめて伐ります。竹職人達は急勾配の山道を運搬機と共に分け入り、一日中重たく長い竹を切り運び出すのです。そして、大きさや品質で選別したのち、ガスバーナーによる油抜き、矯め直しという製竹作業を行います。一本一本の個性を最大限に生かすために、熟練した職人の手で竹を炙り、まっすぐに矯正されるのです。こうして製竹された虎竹が、様々な竹製品へと生まれ変わります。
虎竹和紙の製造
虎竹を原料にした竹和紙
高知は豊富な水資源があり昔から手漉き和紙の盛んな地域として知られています。昔ながらの土佐和紙職人さんも沢山おられますので、竹虎も以前より竹和紙作りにはずっと取り組んできたのです。和紙作りの職人さんの長年と知恵と技術で原料となる虎竹を長期間水につけ込むなど、手間暇かけた竹和紙作りが始まりました。
こりゃあ和紙にならんぜよ~
今年は大きな誤算がありました。ある日、突然に土佐和紙製造会社の社長さんからある連絡を受けたのです。「竹虎さん、おまん、こりゃあ和紙にならんぜよ~」日本唯一の虎竹を和紙にするためには長期間水槽で水に浸けておき、柔らかくなった所で撹拌して繊維を取りだしていきます。ところが、今年の虎竹はどういう訳か、例年どうおりの製造工程では和紙素材に適した柔らかさにならないのです。
同じ性質の竹は一本もない
いつもと同じ原料の虎竹のはずなのですが竹には個体差があります。極端にいえば同じ性質の竹は一本としてなくて、丸い形や、伸び具合、曲がり、粘りなど一緒の竹林に育つ竹でもそれぞれ違いがあるのです。今回の竹につきましては、虎竹和紙にする竹ですから全体からすると本当に極わずかな量、虎竹の里の大きな自然のバイオリズムの中で、少し硬い個性を持った性質の虎竹だったのでしょうか?
手作業で繊維質に
とにかく虎竹を和紙に漉ける細かい繊維質にしないといけませんでした。土佐和紙工場から、いったん持って帰ってきた竹素材を竹虎の職人たちが、木槌でひとつひとつ叩いて砕いていきます。すでに柔らかくなっていて、手で強く握るとボロッと崩れるような竹もあります。しかし、これではまだまだ。和紙に漉けるような状態ではありません。半日がかりで細かい繊維質に叩き終えた頃にはクタクタ、手の感覚がなくなって言う事をきかないほどだったのです。
土佐和紙工場
丁寧に叩いて細かい筋状の竹繊維にしたところで、再び土佐和紙工場で和紙漉きの加工に入ります。虎竹和紙作りをお願いしている和紙工場は、大型機械で大量に和紙漉きをする工場に比べると本当に手作りで受け継がれてきた伝統の技術が活きる職人の和紙漉きと呼ぶにふさわしいものです。何本もあるパイプからは近くを流れる仁淀ブルーの伏流水が溢れだします。こんな綺麗な水が豊富にある土地柄だからこその和紙漉きの伝統なのだと、つくづく感じます。
虎竹ゴールド、虎竹和紙
竹繊維の残る素朴でしっとりとした風合い、パルプを混合して耐久性も申し分ない日本唯一の虎竹を使った和紙が漉きあがりました。今回は、苦労の末の完成。漉きあがった虎竹和紙の黄金色の上品な色合いが南国土佐の陽射しをうけて、まさに虎竹ゴールドと呼ぶのにふさわしくキラキラと輝いて見えるのです。
渋引仕上げ
虎竹和紙団扇は、青い未熟のがら柿から採取する柿渋(渋引)を塗って仕上げています。柿渋を塗る事によって、防水、防腐、防虫効果が高まり、和紙が丈夫で長持ちするのです。また、長く使うほどに風合いが増してくる美しさは渋団扇ならではの魅力なのです。
耳紙張り
虎竹和紙団扇には、二代目義治が考案して60数年使ってきた竹虎ロゴマーク入り。虎竹ゴールドに淡く浮かび上がる銀鼠(ぎんねず)と、桃花色(ももはないろ)の2色からお選びいただけます。また、傷みやすい団扇の縁部分には和紙を重ねて補強されています。長くご愛用いただける作りです。
竹虎二代目義治
竹虎ロゴマークは、竹虎二代目義治が大阪天王寺の工場から日本唯一の虎竹の里に本社を移した後の60数年前からずっと使っています。竹虎にとって、とても想い入れの深い大切なマーク。二代目を敬愛する竹虎四代目は、このマークが大好き。作務衣にも、首に巻くマフラー(タオル)にも、前掛けや持ち歩くバックにまで全て竹虎マーク入りなのです。
竹の柄
団扇の柄は伸びのよい良質の真竹を使っています。竹表皮を綺麗に磨かれた柄部分は適度な厚みと幅で持ちやすく、手に優しくなじみます。持ち手部分には「創業明治二十七年 竹虎」と記した筆文字。細部にもこだわったアクセントの効いた仕上がりです。
黒竹団扇立て
厳選した黒竹を山の頂上に節をもってきます。細い黒竹は節の部分と節の間では硬さが違うので、熱の当て方に注意しながら、ゆっくりと曲げていく作業が腕のみせどころ。美しい円弧をえがく黒竹団扇立ては、竹の特性とクセを知り尽くした竹職人の匠の技なのです。
夏のインテリア
団扇立ては昔ながらの夏のインテリア。 団扇を立てとしては、もちろん、団扇を入れていなくとも綺麗な竹の曲線美をお 楽しみいただけます。
細やかな気配り
足元の丸竹は通常そのままなのですが、ちょっと目隠しして竹の切断面にもオイルステンで塗るとスッキリ。目隠しには、虎竹を使いました。
横ヒゴと足部分
うちわ立ての片側には柄をのせる横ひごがあって、うちわを置いた時の格好がより良いよう工夫がされています。横ひご、足部分の2本の張りとも太い竹をけずった竹ひごを黒目に染めています。
黒竹のこだわり
黒竹は、細くても非常に丈夫な竹です。黒竹のツヤは、塗料ではありません。竹をバーナーであぶった時に竹からにじみでる竹の自然な油分です。この丈夫さと竹の独特のしなりを生かして竹虎では縁台や玄関すのこに使っています。表面の色は、生えてから秋頃までは緑色ですが、次第にメラニン色素が増えてきて紫黒色、又は、紫褐色に帯びてきます。青竹と比べて幹が細いのが特徴です。
伐採してきたばかりの黒竹は自然のものですから一つとしてまっすぐなものはありません。そこでまず黒竹をまっすぐに直すため「ため直し」という作業を行います。黒竹はガスバーナーで一本づつ丁寧にあぶられ、竹自身から出る油分で拭き上げると見違える様にツヤが出て美しくなります。黒々とツヤが出た黒竹は、匠の熟練の技でため直され(曲がりを専用のため木で矯正する)真っ直ぐな黒竹の製品へと生まれ変わるのです。
日本の職人力
国内の竹職人の高齢化にともない思うようなモノづくりが出来なくなりつつあります。以前紹介しておりました黒竹の丸竹をそのまま使う団扇も、粘りがあり節の多い黒竹を団扇用に加工するのは熟練職人さんしかできません。
日本の職人で創りたい
しかし、まだまだ日本が長年培ってきた職人力は健在です。日本唯一の虎竹から和紙職人、団扇職人。ずっと日本で使われ続けてきた何気ない小さな団扇ひとつに自分達の思いをのせてお届けしたいと思っているのです。
サイズ
天然素材を手作りしておりますので、形や色目、大きさが写真と若干違う場合があります。
※保管方法
保管の際には直射日光を避け、風通しの良い場所でお願いいたします。ビニール袋など通気性の悪いものにいれての保管はカビの原因となりますのでご注意ください。
※細い竹の毛羽立ちが出ている場合がございますのでお取り扱いにはご注意ください。