流鏑馬笠(やぶさめがさ)
流鏑馬をご存じでしょうか?馬に乗ったまま走りながら弓を放つ騎射術を、テレビなどで見た事があると思います。何を隠そう自分も明徳時代は、弓道部に籍を置いたこともあるので少し覚えがありますが、弓を射るだけでも大変なのに、あの不安定な馬に跨って弓を射るとは体力はもちろん、想像を絶する精神力が必要です。
ようやくの復刻
その時にかぶる笠が流鏑馬笠(騎射笠)と呼ばれていて、どうにか復刻できないかとチャレンジしていました。ここまで来るのに一体何年かかったでしょうか?美しい出来映えに満足しながらも少し複雑な思いも感じています。
流鏑馬笠の話をしましたら、やはりご存じのない方もおられるようでした。しかし、ビジュアルの力は凄いです、こうして絵にして見ていただきますと、まさに一目瞭然。馬に跨った武者が弓矢で的を射抜く様子がよく分かります。これをご覧されたなら、皆様もきっと一度や二度はテレビなどで、この勇壮な姿を目にされているかと思います。
残された古い一笠
流鏑馬笠の復刻は画像左に写る古い一笠からはじまりました。かっては20名をこえる笠編み職人がいたと言いますけれど、遂に一人もいなくなり必要なくなったからと譲られた古い網代笠。網代編みをする竹職人はいても、これだけの曲線をどうやって出していくのか?何人にも断られ、失敗してもいつかは出来るだろうと楽観していたのは、出来るまで諦めないからです。
緻密な網代編み
ゆるやかなカーブの連続の流鏑馬笠を緻密な網代編みしていくには型が必要でした。まず原型にそって石膏粘土で型をとり、その型に合わせてクセをつけながら編み上げていきます。
柾目割り
柾目の竹ヒゴ
竹編みを難しくしているのは柾目の竹ヒゴを使っている点です。柾目とは丸い竹材を縦に割っていくものなので、竹の厚み部分がヒゴ幅になります。虎竹細工など竹表皮部分を活かす場合の板目に比べると、圧倒的に多くの材料が取れるので竹細工の盛んな頃には良く使われていたものの、現在では殆ど見かけなくなりました。すぐ思い浮かぶのは、自宅で使っている輪弧編みの竹ペンダントライトくらいではないかと思います。従って柾目の竹ヒゴを取る機械なども、流鏑馬笠復刻でもなければ見る事もなかったと思います。
流鏑馬笠の流れるような曲線は、この柾目の竹ヒゴがあってこそなのです。当社にある青竹細工でも、60センチサイズの竹ざるなど竹表皮を取った後の竹の身部分を二番ヒゴ、三番ヒゴと取っていきます、一本の竹を出来るだけ使い切るのが昔から伝わる編み方なのです。けれど、同じ身部分の竹ヒゴのように見えても柾目の竹ヒゴは柔らかく、しなやかな性質をもちながら、それでいて竹で一番丈夫な竹表皮部分が竹ヒゴの片側に必ず備えられているから強いのです。
縁部分
縁部分にはユニクロメッキの番線を使い元の流鏑馬笠のラインを復元しています。切断面にはグラインダー掛けして、溶接したあとは金ヤスリも使い平らに整えています。
柿渋×漆
色ムラにならないよう柿渋の濃度を少しづつ上げながら四回塗り重ねます、それから仕上げに漆を二回塗布した深い色合い。コンコンと軽く叩くと、軽く乾いた音が響くほどの硬度となっています。
高知に連れて帰って
美しく編み上がった流鏑馬笠を手にした時は嬉しかったです。あの工房の片隅で汚れてボロボロになって忘れられていた笠が、このような形で甦るのです。日本の手仕事は、まだまだ捨てたものではありません。「ここは寒いから、暖かい高知に連れて帰ってくれよ」確かにその時に聞きました。原型となった古い笠は、復刻の日を知っていたに違いありません。
迫力満点の流鏑馬笠
竹虎の流鏑馬笠と、射手であるお客様の笠とはこれだけ形が違います。また、柿渋や漆を塗布する段階でも色合いが異なっています。両サイドが鋭くたちあがり迫力満点、上から見た形は流れるようなスピード感あるフォルムに仕上がっています。
サイズ
天然素材を手作りしておりますので、形や色目、大きさが写真と若干違う場合があります。
※保管方法
保管の際には直射日光を避け、風通しの良い場所でお願いいたします。ビニール袋など通気性の悪いものにいれての保管はカビや劣化の原因となりますのでご注意ください。