高知新聞 2006年5月8日

新聞掲載
高知新聞で虎斑竹の魅力について掲載されました。竹の表面に虎皮のような模様が入った、高知県須崎市安和にしか生育しない、日本唯一の虎斑竹の魅力について語られています。
高知新聞 2006年5月8日

虎斑竹の魅力――山岸龍二

国内には約六百種ものタケ科植物があるといわれ、竹は私たち日本人にとって身近な植物の一つである。
古くから竹は生活道具の素材として、丸のまま、あるいは割り、剥ぎ、編んだりと形を変えながら利用されるとともに、七夕や門松飾りなど祭りや神事にも欠かせないものとして受け継がれてきた。このように私たち日本人の暮らしに物質的だけではなく、精神的にも深くかかわっている。日本には「竹の文化」ともいえるものがあると感じる。
しかし、日々の中でどのように利用されてきたかとなると、あまりに身近過ぎて意識しないことが多いのではないだろうか。また、生活様式や人々の価値観の移り変わりによって、プラスチックなど安く大量生産できる代替品にとって代わられた。違った価値観や利用方法が竹には求められており、私たち竹細工職人は花器や書道具など工芸品を中心に作る一方、日常生活にも使える竹製品作りへの工夫を重ねている。


安和の里には虎斑(とらふ)竹という竹がある。最初は見た目には青々とした竹だが、二年目ぐらいからだんだん斑紋が出てくる。紫褐色で虎模様のような独特の斑紋は、私たちの間では一般的に、日光や寒さが色付きに関係あるとされている。適度に日当たりがよく、そして気温が低くなるほどいいようである。
幹に付着した菌の作用によるとの説もあるが、はっきりした理由は分かっていない。安和にしか育たない不思議な竹だ。山すべてに斑紋の美しい竹が生えているかといえばそうではない。山にもよるが、全体的に美しい色が付いて製品として使えるのは二、三割ほどだろうか。後は色が一部だけだったり、付かないものが結構多いのである。


そして、重要となってくるのが切り方。竹はよく知られているように、根で繋がっている。色の付いた竹を全部切ってしまうと、根を弱らせてしまうことにもなる。だから一定の範囲の中に親竹を残して切らなければならない。しかし、山に生えている竹は全体が白っぽい蝋質状のものに覆われているので判別しづらく、親竹を残して何年生かも見ながらの伐採作業は非常に経験のいる作業だ。
しかも竹林のほとんどが急傾斜地にあり、ようやく通れる道を三十~四十分も歩いた所からの切り出し、運搬作業などは大変な重労働である。この里山にいる二十人ほどの切り子さんも高齢化が進み、後継者育成も重要課題になっている。
そして、切り出された竹は大きさや色付きなどによって選別し、バーナーの火であぶって油抜きをする。これによって余分な油分や水分を抜き、表面の汚れを取り除き斑紋を浮き上がらせるのである。また、油分で表面を覆うことにより、虎斑竹独特の艶を与えることになる。
油抜きをした後の美しさは、ほかの竹にはない魅力にあふれている。十五年ほど前に大分別府での修業時代中、ある先生にいわれたことがあった。「あなたは日本で一番、虎斑竹のいい材料を手に入れられる。本当に幸せだね」と。白竹や磨き竹を主に竹細工を勉強していた私にとって、この言葉は、虎斑竹を見詰め直すきっかけともなり、この竹と歩んでゆく使命のようなものを感じさせた。


自然の創り出した虎斑竹。同じ物を作ってもすべて微妙に色合いや表情の違う籠たち。私の未熟さも多分にあるだろうが、竹に作らされてると感じて仕方がない。自分の作った物の魅力のほとんどが虎斑竹から来ているとさえ思うことがある。こんな素晴らしい竹と共にあることに誇りを感じる。この竹とさまざまな場面で出会った方々に、少しでもこの竹の魅力を知ってもらえたなら、これほど嬉しいことはない。
山を元気にするために山づくりには力を入れてきたが、古くからの切り子さんから「昔は色のよい竹がたくさんあった」との声も聞く。私たちの仕事が日本でここにしかない虎斑竹と共に、日本人の暮らしの中に根差した「竹の文化」を守り、発信していくことに微力ながらもつながればと思っている。
(竹虎 山岸竹材店専務、須崎市安和)


(新聞「高知新聞 2006年5月8日」より転載)

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