安和の山中にひっそりと育つ、希代の″虎斑竹″
高知県須崎市の西に外れにある安和地区は、全国でも稀有な虎斑竹(別称 虎竹)の産地である。虎斑竹とは淡竹の一種で、その名が示すとおり表面に紫褐色の虎皮のような美しい斑紋が現れたもの。装飾用建築材や工芸用として珍重される。この竹を他所で繁殖させようと移植しても、斑紋が出ないということから不思議。一説には、付着した寄生菌の作用によるものといわれているが、詳しいことはよく分からない。
美しい虎斑を纏うには、適度な日射量が必要となる。但し、陽にあたり過ぎても日焼けや病気になってしまうという、至ってデリケートな竹なのだ。それ故、絶えず山に入って、下草を刈ったり、斑紋の出ない質の竹は根を張らないように切ったりと、世話が焼ける。
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虎斑竹
竹の成長が止まる冬は、伐採の好期
虎斑竹の里・須崎安和地区。狭隘な平地の先には須崎湾が広がる
伐採は、竹が一応の成長を遂げる晩秋から冬にかけて行う。春先は、筍を生やそうと、土中の水分や養分をたっぷりと蓄え、虫が付きやすくなるので避ける。伐採した竹は、暫く寝かせた後、火で炙る。このようにすることにより、内部の油分や栄養分を浸み出させるとともに、表面を覆っている?状の油も溶かす。これを布拭きしてやればつやっとした緑地に美しい斑紋がくっきりと浮かび上がる。
「細工に一番扱いやすいのは、3年から4年ものの生命力に溢れた竹です」と語るのは、家業の竹細工に勤しむ山岸龍二さん。山岸さんは、大分県別府にある技術専門学校の竹工芸科で学んだ後、著名な竹工芸家に師事するなど研讚を積んできた。竹細工をするうえで、基本となるのが、″ひご″取り。その最初が「割り」作業である。ひごの幅は、制作する物によって様々だが、例えば3mmのひごを取る場合、丸い竹を何度も割っていき、まず3.5mmほどの幅にする。これをV字状に立てた刃の間を潜らせ、きっちり3mm幅に揃える。
次に、手触りがいいように角を取った後、0.25~0.30cm程の厚さに揃えてやる。紙一枚ほどの薄さは、まさに勘と経験が物言う世界。
虎斑竹の妙味は、やはり自然が作り出した独特の色と模様にあるという。確かに、籠にしても花器にしても、どれ一つとして同じ物は無い。
「現在、竹製品は輸入物が幅を利かせていて、安価というイメージが強いでしょう。一方、工芸品は手間がかかる分だけ高価になり、なかなか家庭の中まで浸透していきません。この希代の竹を使って、さまざまなジャンルに挑戦し、竹の良さを広く伝えていきたい」と、熱ぽっく抱負を語る、現在の竹工芸師である。
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虎斑竹を炉で熱して表面を布拭きすると、美しい斑紋が浮きあがる
伐採した竹を田に広げ、品質や太さ、用途ごとに選別する
立てた刃の間に割った竹を通じて、幅3mmの″ひご″を取る
細いひごを自由に操り、籠を編む山岸龍二さん
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虎斑竹の斑紋を上手く利用して、細部まで忠実に作られた虫たち。今にも動き出しそうだ
虎斑竹を使った製品の一例。籠をはじめ、バックや文箱、下駄など様々なものが作り出されている
(雑誌「ライト&ライフ 2003年5月号」より転載)