手仕事の技が冴える土佐の逸品
高知県は林野率が85%を占める「森の国」だ。だから、木にまつわる逸話がたくさんある。たとえば、日本唯一の竹細工品や四万十ヒノキの水まわりの品、山仕事用の鎌づくりから発展した土佐刃物、天然木の良さを生かした玩具など。ここに共通しているのは、県産の素材と手仕事へのこだわり。土佐の風土がはぐくんだ人・ものが醸し出す、素朴で温かい逸品に触れる旅に出てみよう。
虎斑竹の細工物
日本文化の粋、竹のある豊かな暮らしを提案
高知県西南部の須崎市安和地区は、日本唯一の虎斑竹自生地である。虎斑竹とは、表面に虎皮のような模様が浮き出た竹で、古くからこの地区にしか自生せず、その美しさから珍重されて土佐藩に年貢として納められていた。そんな貴重な竹を使って、明治時代から120年以上もこの地区で竹製品作りをしてきたという竹虎本店を訪ねた。本店展示場にはいると、竹細工のオンパレード。美術品レベルのものから日常生活用品、竹トンボや竹炭まで考え得る限りの竹製品が展示されている。その数、5千種を超すというからすごい。
虎斑竹は、生の状態では普通の竹とさほどかわらない。生竹を炎であぶり、竹から滲み出してきた油で拭きあげると、あざやかな虎皮の模様が浮き出てくるのだ。そして、同じ虎斑竹でも美しい模様がでるA級品は全体の2~3割程度、それを見極めるのはまさに職人技だ。その竹を割き、模様を生かした精巧な細工をするのも、この里の人たちの間で継承されてきた熟練の技である。「竹は刈っても刈っても生えてくる。継続して利用可能な貴重な天然資源です」と言うのは、竹虎四代目当主の山岸義浩さん。伝統の技を受け継ぎ、次代に伝えていくのが竹虎の使命だと、熱い心意気で虎斑竹のさらに多様な利用法を研究中。「新しい竹文化を創造し、竹のある暮らしを提案したい」と、虎斑竹の美しさを発信し続けている。
炎であぶって竹の油分を出し、その油で拭き上げると瞬時にあざやかな虎模様が浮き出てくる
竹にはひとつとして真っ直ぐなものはない。熱した状態で一本一本、力を加えて真っ直ぐに矯正していく
【バッグ】
虎皮の模様が個性的な鞄「ニューヨーカー」。
【ペン】
虎斑竹で編んだ胴がきれい。手触りもしっくりとくる一品で、使って良し、眺めて良しの選ばれた道具。
【名刺入れ】
仕事ができるヤツと思われること間違いないし!虎皮模様が粋を感じさせる。使い込むほどにさらに模様があざやかに。
【猫籠】
ネコのベッドにもなる手提げ籠。可愛い名前とは裏腹に高度な技術を要する竹籠は買い物籠として活用できる。
ミラクルバンブー
安和地区内の東西1.5kmの範囲にしか生えない理由は、気候や潮風、土中のバクテリア説などが挙げられているが、いまだに謎である。他所の土地に移植すると模様は出てこない。海外マスコミも世界唯一の虎斑竹を「ミラクル」と報道した。
【弁当箱】
編み方や竹の種類によってさまざま。竹の弁当箱は、しなやかで軽く強度も高い。通気性が良いので衛生的というのがいちばんの利点だ。
(雑誌「瀬戸マーレ 2016 Spring vol.28」より転載)