session 02 10/24[SAT]
日本の手仕事、
日本の素材
山岸義浩 竹虎 山岸竹材店
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川越仁恵 伝統工芸産業研究者
Yoshihiro Yamagishi
in collaboration with Akie Kawagoe
竹製品は日本に古くから伝わる伝統的な道具です。竹は温暖湿潤な気候帯に分布し、アジアでは日常生活の中に取り入れられてきたため、オリエンタルな素材として知られています。しかし、日本では竹製品を身近な日用品として使う人が減ってきています。高知県の竹材メーカーとジャパンクリエイティブは、竹というアジアならではの素材に挑戦しました。
高知県須崎市にある竹虎山岸竹材店は、明治27年(1894)大阪市で創業しました。第二次世界大戦の戦火で焼け出されたのち主力商材であった虎斑竹の産地、高知県須崎市に本拠地を移しました。好調であった竹業界も、プラスチックなど竹にかわる素材の普及や安価な輸入竹材の増加、生活様式の変化によって需要が激減、同社の業績も悪化しました。しかし、試行錯誤の結果、インターネットでの販売を取り入れ同社は目覚ましい復活を遂げました。
トークでは竹を話題として、天然素材を用いたものづくり、日本のものづくりと他国について竹虎さんと考えていきたいと思います。竹製品をはじめ天然素材を原料として用いたプロダクトの場合、より良い製品を作るためには、素材の利点を活かしているかだけでなく、化学製品では代替できないという優位性を有しているかがカギとなります。私はこのような工芸品の企画をする際、職人とともにいつもそのことに頭を悩ませています。
日本のものづくりが優秀であり、他国に負けないことは皆が納得するところです。しかしやみくもな日本びいきはせず、それぞれの国のものづくりが独特の良さを持つ中で「これだけは日本ならでは」「日本の本領発揮」という点をトークでは注意深く選り分けていきたいと思います。自国の製品が優れているとただ妄信的に思い込むことなく、限界を知った上で美点を向上させる。他国にも他国の理屈で成り立っているデザインがあり、その理解に努めたうえで欠点と利点とを建設的に評価していく。これが技術のいわば文化相対主義であり、デザインの文化相対主義ちでも呼ぶような態度ではないでしょうか。その上で、「ここを」と使い手が考えて最適に選べるのが、各国共存の道です。
そして日本の竹を使うことを前提にしたとき、どのようなデザインであれば、より日本の竹の特徴を活かし他国の竹を用いるより美点が増えるデザインとなるのか。そこがまさにデザインの真骨頂、日本のものづくりの永遠の挑戦ではないか、と思うのです。高知県で頑張っているものづくりのフロントランナーとご一緒に考えてみたいと思います。 文 川越仁恵
山岸義浩
Yoshihiro Yamagishi
1963年高知生まれ。創業明治27年(1894年)から続く老舗竹屋の四代目。日本で唯一「虎斑竹」が生育する虎竹の里で、竹林での伐採から製造、商品開発、販売までを行う。「豊かな竹のある暮らし」をコンセプトに、ものづくりから講演、セミナー、執筆なども行い、国内外に竹製品の魅力を伝えている。全日本竹産業連合会理事、高知e商人養成塾会長。
川越仁恵
伝統工芸産業研究者。東京都美術館学芸員を経て2015年より日本経済産業大学経営学部講師。研究成果を社会に役立つプロジェクトとして変換、各地の商品開発やブランディングを手がけ、全国の職人、組合、ものづくり企業の相談にのっている。企画立案したTOKYO CRAFTS&DESIGNは2013年度グッドデザイン賞を受賞。新潟し漆器同業組合アドバイザー、与板打刃物匠会クリエイティブ・プロデューサー。
New Projects
竹虎・山岸竹材店 [竹]×ステファン・ディーツ
Taketora [Bamboo]in collaboration with Stefan Diez
R&D 田渕智也
入念なリサーチに基づき
竹本来の「生」の魅力を引き出す
日本人に非常に親しみの深い素材「竹」。竹は縄文時代の遺跡からも出土しているという記録がある。人々は古来より、軽く、加工がしやすい竹で、農具や狩具、漁具としてかごやざるのような道具を作っており、日本人の暮らしに欠かせないものであった。近年では、その美しさと堅牢さから、海外のクリエイターからも注目を集めている素材である。
高知県は、森林が県土のおよそ84%を占めるほど山地の多い地勢で、林業および木土業が盛んな場所。その中で、竹材は伝統的技術の継承に注力するだけでなく、現在および未来の地域資源として捉え、工業製品の部材に登用するなど新しい試みが活発に行われている。竹虎は明治27年創業の竹専門メーカーであり、職人たちの研ぎ澄まされた技は、海外からも取材陣が訪れ、その美しさから「ミラクルバンブー」という愛称が付けられたほどだ。
タッグを組むデザイナーはステファン・ディーツ。ヨーロッパで活躍し、数々のインテリアメーカーからプロダクトを発表しているが、彼のデザインの特徴はなんといってもユニークな構造だ。
ディーツは高知県に赴き、『竹虎』とその周りにある竹林を訪れリサーチを重ねた。そこで得たのは、表皮に近いほど繊維の密度が高くて弾力性に優れていることや、折れにくい特質を持っていること、楢材よりも比重が高く硬いこと等の竹本来が持っている特性に改めて注目。竹だけが持っている生の特性を活かした、ダイナミックな家具を提案した。
竹虎・山岸竹材店
1894年(明治27年)に事業を始め、『竹虎』というブランド名のもと、竹材・竹製品製造卸売業として活動している竹材専業メーカー。現在は四代目を中心にその「虎斑竹」と120年以上育んできた技術力を守り継承しつつ、竹文化の創造と発信で豊かな「竹のある暮らし」を提案する、という経営理念を掲げて、日本の竹製品全般の魅力を伝える活動を積極的に行っている。
ステファン・ディーツ
2003年に独立。それ以来、家具や食器をはじめ多彩な分野にて数々にプロダクツをデザインしている。「オーセンティックス」「ブリ―」「エスタブリッシュ・アンド・サンズ」「モローゾ」「トーネット」「ウィルクハーン」等幅広い企業のデザインを手がける。IFデザイン賞金賞、レッド・ドット賞ベスト・オブ・ザ・ベスト賞などを受賞している。
(雑誌「about Japan Creative」より転載)