明徳義塾 学報 たんぽぽ 2015年4月発行

雑誌掲載
第9回 明徳生にエールのコーナーに、明徳義塾高校の卒業式で竹虎四代目が講演させていただいた内容が紹介されました。恩師、吉田幸雄学校長が「おんしゃあ日本一の竹屋やろうが!」と激励して下さったエピソードなどお話させていただきました。
明徳義塾 学報 たんぽぽ 2015年4月

第9回 明徳生にエール
特別講演(卒業式)
[要約]


(株)山岸竹材店
山岸義浩さん(明徳義塾高校/第3期卒)

山岸義浩さんプロフィール
1963(昭和38)年生まれ、明徳義塾高校3期(1981年)卒。
(株)山岸竹材店社長。1894(明治27)年創業の老舗4代目。竹皮・草履・ざる・竹かご・竹炭などの製造販売を手がけ、これらの商品は独特の模様のある『世界唯一の虎斑竹(とらふだけ)』として世界で高い人気を誇っている。


私がこの壇上で、卒業証書を今は亡き吉田幸雄校長先生から頂いたのは34年前。卒業証書を受け取りながら、実は檀上でこんなやり取りがありました。
「大学は決まったか?」
「いいえ、まだ決まっちょりません」
「よし分かった...」

明徳での6年間、何をやっても中途半端。スポーツで目立つワケでもなければ、勉強で秀でる事もなく、そこに居ても、居なくてもだれも気にもとめないような生徒やったがです。けんど、校長先生は自分の事を見てくれちょった、この壇上にあがり、証書を手にして初めて知ったがです。そんな校長先生の期待に添い、近畿大学に進学。卒業後、ここ明徳と同じ須崎市にある創業120年という老舗竹屋で継いで、今に至っちょります。

須崎市安和、「虎竹の里」にはわずか1.5キロの間口の谷間にしか生育しない虎模様の入る不思議な竹がありよります。英国BBC放送が取材に来たり、数年前には、「ユニクロ」とコラボTシャツを製作したこともある珍しい竹です。自分たちは、この100年にわたって守られてきた竹文化を、次の100年に継承していくことを大きな経営の柱と考えちょります。

自分の明徳生活は真っ暗でした。虚しく何の気概もない毎日をただ過ごしているだけで、スポーツや勉学で自分を精一杯出して頑張っている周りの皆がうらやましく思えました。そんな中で、校長先生が繰り返し言われた言葉が忘れられません。「おんしゃあ、日本一の竹屋やろうが!」
中学野球部でレギュラーになれなかった時、高校で停学処分になった時、ふがいない自分を見つけては、そんなダメ男が日本でここしかない竹を守れるのか、やっていけるのか、竹屋になれるのか!?校長先生はいつも問いかけてくれ、励ましてくれよりました。当時は、そんな事が全く分からず竹屋など大嫌いで格好悪いとばかり思いよりましたので、その言葉がイヤでイヤでたまらんかったがです。

竹屋の仕事は、典型的な3K。キツイ、汚い、危険...入社したころは景気のよい時代やったので周りの皆が輝いて見えて、それは明徳で何ひとつ達成できず、人をうらやんでばかりの自分と全く同じでした。竹は衰退産業そのもの。年々落ちていく売り上げ、自分ではどうしようもない閉塞感の中で、もがいてもがいて、そして大きな借入金の中、会社の倒産も時間の問題のように思いよりました。そんなある日、一人のお客様の言葉が、胸に突き刺さりました。
「あなた方の仕事は素晴らしい。私は竹を見ると癒される。」あんな誰も見向きもしない竹を素晴らしい?癒される?信じられませんでした。お客様の真剣な目を見た時、涙があふれて止まらんなりました。そして、もう一度思い出しました。あの校長先生の声「おんしゃあ日本一の竹屋やろうが!」自分が諦めてしもうたら、日本唯一の虎竹は世の中から無くなってしまう。沢山の職人さんの仕事はどうなる?竹を素晴らしいと言うてくれるお客様はどうなる?

もう一度だけやってやる!そういえば、明徳の校章はタンポポです。「踏まれても咲くタンポポの笑顔かな」と校長先生も言いよった。タンポポは何回踏みつけられても、また生えて綺麗な花を咲かせるのです。倒産して無くなりかけていた竹虎がインターネットでの情報発信に活路を見いだしたその出発点は、すべて明徳にありました。「おんしゃあ、日本一の竹屋やろうが!」。昔、自分が何度も何度も全校生徒の前で怒鳴られた言葉は今では自分の誇りとなり、自信となり、支えとなって、毎日の朝礼や全社会議で自分が口グセのように言いよります。

人が竹に学ぶ事は幾つかあります。竹は真っ直ぐに天を目指して、わずか3ヶ月で20数メートルの成長をします。けんど、強風が吹いてもしなって、折れる事はありません。この秘密は節にあります。竹は節があるので強い、そして、土の中で天然の鉄筋コンクリートと言われるほど地下茎が張り巡らされ、それぞれの竹が手と手を握りあい、助け合っています。地下茎の「助け合い」は、まさに明徳の寮での、共同生活そのものです。竹に触れる度、その事を思い出しちょります。

皆様のこれから素晴らしい人生、山あり、谷あり、だと思います。けんど、だからこそ楽しい。いつでも帰って来られる心の故郷が、私たちにはあります。新たなスタートを切る後輩の皆さんと同じように、自分も34年の時を経て、もう一回『卒業』して気持ちも新たに再スタートできる幸せを、今日ここで感じちょります。
皆さん、明日は変えられますぞね。おめでとうございます!そして、ありがとうございます!


(雑誌「明徳義塾 学報 たんぽぽ 2015年4月発行」より転載)

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