「継続」こそがユーザーの信頼を得るための近道
【インタービュー】高知の老舗竹材専業メーカー「竹虎」の試み
Wayfairはwebマーケティングを徹底的に行った事例でした。
一方、実践していくことに対して肝に据えておきたいのは。なによりも「継続」していくこと。
ここでは、日本からの早くからEコマースを立ち上げて多くのファンを獲得している老舗竹材専業メーカー「竹虎」さんをご紹介します。
四代目の山岸義浩氏の言葉には、たくさんのヒントが隠されていました。
取材・文 奥田高大
やるべきことをやるだけ
創業120年、日本で此処にしか育成しない「虎竹」を中心に約1,100もの竹商品を扱うECサイト「竹虎」。今でこそ、日本でも有数の優良ECサイトに成長しているが、1997年に四代目山岸義浩さんがスタートしたときはまさに同社の売り上げはどん底。竹ならぬ、ワラをもつかむ思いでECサイトをスタートさせた。
「もともとうちは職人さんやメーカーさんに、高知の土佐でしかとれない、虎斑竹を卸す仕事をやっとったんです。それでもっとたくさんの人に知ってもらおうと、店を出したり、デパートで販売したりしていましたが、1990年代になって安い輸入品が入ってきて、職人さんやメーカーさんがどんどん倒産、廃業していったんですわ」
そんななか「これしか生き残る道はない」と思って始めたのがECサイトだった。だが、スタートした97年から2000年までの3年間で売り上げはわずか300円。あまりの反応のなさに、「本当に画面の向こうに人がいるんかなと思っていました。もう倒産寸前、夜逃げ直前ですわ」
だが、2001年に履いて状況が変わり始める。
「ずっと投げてたボールにポンと打つ音が聞こえ出した。じゃあ、もうちょっと投げてみるかと1年やったら、2001年の5月に1カ月で16万円も売れたんですよ。それで『これはいける』と思いました」
転機となったのは京都でシャツ無地通販ECサイト【プロショップ京都EASY】を運営する岸本さんが主催するEC向け勉強会に参加したこと。毎回出席し、ページの作り方から、写真の撮り方、SEO、メールマガジンの書き方など、インターネットのイロハを学んだ。
竹虎がECサイトでここまで成功した理由を山岸さんは「教えてもろうたことを毎日一個は必ずにやると決めて、それを続けてきただけ」と言う。
その言葉通り竹虎のサイトには、珍しい仕掛けや、奇をてらったものはない。だが、一つひとつ見ていくと、商品の魅力を伝える写真、丁寧な内設、SNS、動画など、「ECサイトがやるべきこと」を、すべて丁寧に継続して行っていることがわかる。
継続が信用に繋がる
「特別なことはなにもしていない」と言う山岸さんだが、それでもとくに気をつけていることはある。まずECサイトスタート当初に一番力を入れたのは、"信用されるためにどうするか"だ。
「私がECサイトを始めた頃は、みんなクレジットカードをネットで入力するのが怖いと言っていました。Amazonや楽天が売れるのは、信用力があるからでしょう?だから、まずは自分たちの顔を出して、『わたしらは人をだますようなサイトじゃないですよ』っていうのをとにかく伝えようと思っとりました」
サイトのイメージも一貫している。デザインは試行錯誤を繰り返して変化を続けているが、使っていい色、いけない色を決めるなど、イメージは一貫し続けている。
そして商品を伝えるための最も大事な写真や文章といったコンテンツにも気をつけていることがある。
「そりゃあ文章でも写真でも、それが自分にしか作れんもんか?というのは考えとります。竹の感じか、職人さんの苦労とか、そういうのがちゃんと伝わるかが大事」
そして山岸さんの言葉から伝わってくる一番大事なポイントは「継続」だ。SNS、メルマガ、ブログ、動画...とにかくやめずに続ける。そうすることで、お客さんとの信頼関係も生まれてくるのだと言う。
「ぼくの知ってる限り、毎日こつこつやる方法しかないけどね。1年、2年だけ止めるならエイけれど、でもうちは違うから。120年やってきて、これからあと100年やろうと思ってやりよったら、もう続けるしかない。たとえば2006年からはじめたブログも、1年、2年では全然効果なかったんですよ。でも続けてると、ずっと読んでくれてる人がおったり、返事をくれる方がおったりとか。だんだん影響が感じられるようになりました」
現在の注文数は年間4万件以上。だが、山岸さんはどれだけやってもやりつくしたということはないという。その言葉からは、ECサイトで「継続は力なり」がいかに重要かを感じさせてくれる。
●人が見えるサイトで信用力アップ
ECサイトに大事なのは信用力。今でこそネットで買い物をするハードルは低くなったが、まだまだ抵抗のある人も少なくない。だからこそ、「竹虎」は信用してもらうために山岸さんをはじめ、いたるところに人の顔が見えるサイト作りに重点を置かれている。その効果は着実に現れており、お客さまからの反応も多く、結果としあて自社サイトでの売上が伸びていることにも大きく繋がっている。
●丁寧なコンテンツ作り
竹虎のコンテンツを見ると、商品説明の文章から写真まで、どれも丁寧に作られているのがわかる。「インターネットの素晴らしいところは、どれだけやっても無料やということ。写真も文章も気に入るまでやり直せばいいだけ」(山岸さん)。「虎竹」の歴史から商品の解説にいたるまで、サイトを訪れるお客さんの気持ちに寄り添った心遣いや気配りが感じられる。
●一貫したイメージを持つ
アクセスするたびに印象が異なるECサイトは、とうてい信用してもらえない。また、想いを持って伝えたいことも伝え方ひとつで受け入れられ方も変わってくる。そのため、Webデザイナーはこれまで何度が変わっているが、山岸さんがチェックし続けることで、イメージを一貫させている。具体的には、これまでの試行錯誤で得られた経験をもとに、コンテンツの幅をそろえる。色はたくさん使わないなどのデザインが施されている。
●SNS、動画、メルマガ、ブログもコツコツと
竹虎ではFacebook、Twitterのほか、動画による商品紹介、メルマガ、ブログを展開。ブログは2006年から今にいたるまで9年間、日曜日以外は毎日更新するなど、どれも継続して行うことで着実にファンを増やしている。これらの配信をより多くの人に見てもらうために行った共通の施策は一つ、「仮説」を立て「検証」を繰り返すこと。それらを経てどういったコンテンツがより見てもらえるかを考えていったという。
お客さんとのコミュニケーションは「継続」から
4代目山岸義浩さんの言葉からわかったこと、それは竹虎ではもっとも、重要な施策が「継続」ということだ。
2004年にECサイトの運営スタッフを入れるまでは、山岸さんがすべて一人で行っていたということにも驚かされるが、紹介したこれらの施策を継続することで、サイトを訪れるお客さんとしっかりコミュニケーションが図れるようになったそうだ。また、「勉強会で学んだ事を、その日の芯や12時までに一つすること」をひとつひとつ積み重なってきたことで今がある。
ぜひじっくりと竹虎のWebサイトをご覧になっていただきたい。竹文化の深い歴史や魅力を伝えるという「想い」がさまざまな工夫とともに見てとれるのではないだろうか。今後はショールームの役割をはたしている実店舗と、ネットの連動を模索していきたいと山岸さんは語ってくれた。
(雑誌「Web Designing vol.162」より転載)