仲山進也アワー
店舗さん×楽天大学学長
Shopping is Communication!
VOL.25
「熱い商品愛×フェイスブック」が予想もしない展開につながっていく
冒頭からフェイスブックは最高ですねと語った山岸さん。
これまでインターネットを通じて情報発信を続けてきたからこそ見えてきたその可能性。
これからのインターネットショップが担うべき情報発信の姿とは?
山岸さんとの会話から、お客さんとともに作り上げる「お店のあり方」が見えてきました。
今月のゲスト店舗さんはコチラ!
虎斑竹専門店 竹虎
創業明治27年の老舗竹材専業メーカー。日本唯一といわれる虎模様の虎斑竹を使い、職人手作りの箸や籠などを製造販売する。
虎竹を後世に残したい―――
その想いで情報発信を続けてきました
仲山 山岸さんのフェイスブックの熱い投稿を見ているので、毎日会ってるような気がします。
山岸 フェイスブックは最高ですよね! あれだけ情報発信できてタダですもんね。
仲山 お店のフェイスブックページの「いいね!」の数はたしか2万くらい?
山岸 2万4000を超えました。数に踊らされちゃいけないと思いつつ、やっぱり多いとうれしい。
去年は1年間でフェイスブック経由の売上が30万円くらいでしたが、今年はたぶん300万円くらい。来年はこれがされに10倍にならないとは誰にもいえんですよ。 ウチみたいに田舎で現場をもってやっている、漁業でも農業でも製造業でも、そういう人ほど強いと思います。知り合いにトマト屋さんがいて、トマトがこんなに赤くなっていますみたいなのを投稿するだけでも「いいね!」がいっぱいついて、親近感がわく。毎日の仕事のこととか商品のこととか、やり方はなんぼでもあります。要は「接客」と同じですよ。
仲山 リアルの、という意味?
山岸 そうです。来店してくれたお客さんと接するのと一緒。だから「人が好きなこと」が前提ですけど。私もそうなんですが、そういう人は自分の商品をほめられたら、うれしくてタダであげてもええとか思っちゃう。
仲山 (笑)
山岸 フェイスブック上で新商品を紹介したりするんですが、この前もお客さんから「ほしいほしい」いわれて。それで、白竹で試作したワインホルダーがあったんですが、その作りかけの状態を「一体これは何になるでしょう?」とクイズをやって、正解者にプレゼントする企画をしたんです。約130件回答が集まって、実際に正解者が出たんです。当たらんかなと思ってたのに、さすが竹虎のフェイスブックをチェックしている人は違うと(笑)。
仲山 山岸さんが情報発信する上でルールはありますか?
山岸 出す情報を考えておかないと、真っ裸にされますからね。ずっと続けているブログもそうなんですが、私のルールは「竹に関することしか書かない」。プライベートは全然出していません。それでもお客さんとは充分コミュニケーション取れていると思います。
仲山 山岸さんの投稿は、絵面がおもしろいんですよね(笑)。
山岸 そういうてもらえると、うれしいです。昔はスケッチブックに、自分で絵を描いてこのへんに自分がこう写ってと、細かく考えていたくらいですが、最近は感覚的にやっています(笑)。
ほかの店舗さんももっと外向けに情報発信したほうがええのにと思います。ウチも出店して10年虎竹※を全国に伝え続けていますが、ネットショップをやる前は消えていくしかなかったですから。僕らがやらんと、ウチの虎竹の製品が世の中からなくなってしまう。
仲山 たしかに、山岸さんとつながりがなかったら、竹のことを考えるのは、年に一回あるかないかかもしれません。
山岸 今の人はそんなもんですよ。けんど、つい40年、50年前とか親の世代には、食器を干すカゴであったり、物を入れるカゴなんて全部竹。とはいっても、そのまんまの形では今の日本の暮らしに竹をカムバックさせられんと思うんです。だから、たとえばワインホルダーとか、違う形の竹製品を提案して日本人の暮らしにまた竹を復活せなっていうのが想いですよね。
ただ、僕自身が竹屋の息子でありながら、22歳から30歳まで「竹なんて、こんなくだらん仕事」って思っていたくらいで。わかってもらうのは難しいです。
仲山 30歳のときに何かが?
山岸 そうなんですよ。ウチではご家庭の垣根の施工もやっているんですが、僕が30歳のときにあるお宅にお邪魔したんです。それで施工を終えた頃に、そのお宅の奥さんが帰ってきてすぐ私の手をとって「ありがとう! 私はここの庭垣見たら心が癒されるんです。」って。仕事でヘトヘトになって帰ってきたときに虎竹を見ると心が癒されて元気になるっていうんですよ。今までこんなくだらん竹と思っていたのに、それをこんなに喜んでくれる人がいるんやって。本当にうれしかったです。大げさでもなんでもなく、次の日から人生がバラ色に変わりました。
仲山 それはグッときますね!
山岸 それ以来、「こんな汚いもの」と思っていた竹が、愛おしくてしょうがなくなった。そう気づいたタイミングでインターネットに出合って、たくさんの人に虎竹のことを伝えられて本当に幸せやったと思います。
※虎竹:虎斑竹(とらふたけ)とも呼ばれ、表面に虎皮状の模様が入った竹。全国でも高知県須崎市安和でしかとれない希少な竹で、古くから珍重されている。
インターネットの可能性
250万の脱衣カゴが売れる?
山岸 2008年にはユニクロさんからお声掛けていただいて、コラボTシャツを作らせてもらいました。
仲山 何で知ったんでしょう?
山岸 やっぱりネットでしょうね。これまで情報発信し続けてきたことが評価されたんだと思います。
仲山 情報を発信し続けることって、やり続けるとどこかのタイミングで思ってもみなかった方向に運ばれていく感じになることがありますよね。
山岸 ウチもそういうラッキーがいくつもありました。インターネットがなかったら、一生みなさんに虎竹の「と」の字も伝えられずに一生を終えとったと思います。
仲山 その「竹」を伝えるときに心がけていることは何ですか?
山岸 商品ページでいえば、その情報は全部「現場でつくる」ということ。ウチの情報はすべて竹林がつくります。パソコンの前でカタカタやっても、なんちゃあできません。ページをつくる人間が、現場で職人と話をして、「竹ってどうなんすか」と聞かなわからんことがいっぱいあります。あとは、商品そのもので驚かせるとか。
仲山 といいますと?
山岸 たとえば、最近では4万4250円の竹の筆を作りました。絶対売れんと思います(笑)。あと、今制作中のでは大きな白竹の脱衣カゴで、金額は25万円。値段聞いたらウッと思いますし、たぶん売れないんです(笑)。でもどれも僕が使いたいし、商品のよいところを「ここがこうなっていていいですよ!」と説明したい。売れるか売れないかより、竹のよさはこうですよ、こだわりはここですというのを伝えて驚かせたいというのが一番にある。もちろん売れるもんがないと困るんですが、売れるもんばっかりでなければとは全然思ってなくて。
仲山 竹を広めることができるかどうか、という基準ですね。この25万円のカゴが売れるかどうかだけで考えちゃう人には理解できないかもしれません。でも、この25万円のかごを山岸さんがめちゃめちゃ熱く語るコンテンツがあって、それをおもしろがったお客さんが、それこそフェイスブックでシェアしたりメディアの人が取材しにきたり、そしたら25万円なんて余裕で元がとれますよね。
山岸 とれます。確かに一生置きっぱなしになるかもしれないけど、インターネットの素晴らしいところはひょっとしたら買う人もおるかもしれんってとこ。少なくともいろんな人に、そんなものがあるっていうことを知らせることはできますやんか。ほんなら25万円より、むしろ250万円のほうがええかもしれん。25万円は売れんけど、250万だったらひょっとしたら売れるかも(笑)。
竹文化を支えるために何ができるか―――
それがウチの理念なんです
竹への愛情あふれる「竹虎」のコンテンツ
竹虎のページ上からは、商品に対する愛情とお客さんに知ってほしいという熱意が伝わってくる。ほぼ毎日更新しているブログでも、新商品について「どこがどうよいのか」を、その作られた背景を交えながら紹介している。
お客さんと一緒に商品化
「竹文化」を守るプロジェクト
山岸 ブログとか商品ページのテキストや写真は全部私がつくっていますが、これは死ぬまでやめられんです。だから、僕一人で情報発信ができるくらいの経済規模でしかできないということにもなります。これまでもそういう売り方をしてきたし、今のままではめっちゃ大きな売上とかむっちゃ大きな会社にはならないですね。
仲山 それでいいというか、それ「が」いいということですね?
山岸 そうです。ある程度スタッフが増えて、任せられる部分もあるとは思いますが、コアな部分では自分しかいません。118年間続く山主としての運命ですよね。
仲山 これからのネットショップの方向性としては、規模が大きいからこそ生み出せる価値があるから会社を大きくしたいというのと、山岸さんのように今のサイズのままでやれることを深めていくのと、二極化しそうな気がしています。
山岸 もうしているんじゃないですか。ただ、大きくなることが目的になっちゃうと怖い。ウチとしては、外の職人さんがつくる竹材商品を全部買えるような会社にはなりたいんです。ウチの商品には、職人さんが一人で、あるいは奥さんと二人で作ってるものがあったりする。僕が買ってもいいと思えるものは、もう全部買い取りたいんですよ。それで買い続けるためには職人さんが的はずれなものを作らないように一緒に直していく。買い付けに行ってその場で即お金を渡して帰ってくるということができるようにはなりたい。
仲山 竹文化を支えるために?
山岸 そうです。昔はそれが問屋さんの役割だった。今、職人がなんで育たないかって、作ったものが売れるか売れんかわからんので、やめるわけです。職人さんもアルバイトしながら竹細工やってるんです。最初っからええもんができなくて、品が悪くても昔は問屋さんが全部買いよった。で、それを全部抱えてくれて、徐々に職人さんが成長できたんです。今はその問屋制度がなくなってしまって。でも、職人さんがいきなり100%のものを作れるようになるわけではないですが、インターネットを使うたら、100%じゃないのをわかって買ってくれる人がいるかもしれません。80%の品なんですっていって、100%なら1000円やけど800円でどうですかっていうたら、買うてくれるかもしれんでしょ。普通のお店じゃできんけどインターネットだったらできますよね。
仲山 「竹文化を残そう」というプロジェクトを立ち上げて、みんなに参加してもらうというスタンスだと盛り上がりそうですね。
山岸 お客さんとかじゃなく、みんながプロジェクトのメンバー?
仲山 そうです。僕が今いろんな店舗さんにおすすめしているスタイルなんです。
山岸 素晴らしいじゃないですか! 生産者も、消費者もみんなでって。今はそういうスタイルに共感してくれるお客さんはいっぱいおると思います。
仲山 そうなんです。「お客さんと売り手」じゃなくて、人と人。掲げる問題が「文化を守る」のように大きいほど、共感する人も見つかりやすくなると思います。
山岸 そうか。「みなさんが手伝ってくれんと竹文化がなくなるんです!」っていうたら、応援してくれる方がいるでしょうね。
仲山 参加してもらう側にも具体的に竹文化を支えるのに役に立っている手応えみたいなのをもてるようにできるといいなって。楽天市場の共同購入でも、規定の金額に到達したら成立で商品が買えるという機能が結構前からついているんですけど、誰かそういう使い方してくれないかなぁと。
山岸 いくら集まったらこの新商品を作って売りますよとか?
仲山 まさにそういう企画です。応用もあって、竹林ツアーを何人集まったら実施します、とか。竹を編んでみるワークショップなんかもできるのでは?
山岸 それはおもしろい! 竹カゴ編みの体験で、ひとつのカゴを持ち帰れるんですもんね。
仲山 持って帰れるとうれしいですよね。山岸さんからどんな取り組みが生まれるか楽しみです。
それではお友達を。
山岸 「ふろしきや」の倉田稔之さんを!
(雑誌「Rakuten ICHIBA DREAM 90 2012 Dec.」より転載)