ECの達人
ネットを活用してビジネスを成功に導いた先達のテク公開!
第4回 株式会社山岸竹材店 山岸義浩さん
「土佐虎斑竹(とらふだけ)」というオンリーワン商材を持つ、創業111年の老舗四代目が始めたネット事業。3年間で売上げ300円という低収益でもあきらめず、先輩ネットショップ店主や専門家のアドバイスを忠実に実行した結果、右肩上がりの成長を達成した。「知ってもらえば必ず売れる」という商品の魅力と、苦労して得たネットショップの運営術を聞く。
競合ゼロの竹製品をネット販売
売上げ300円から1億円と飛躍
虎斑竹専門店 竹虎
竹虎のサイトが立ちあがったのは1997年のことだが、ネットショップとして本格稼働したのは2001年の5月。以来、レベルアップを続けている独自ドメインの本店サイトと、02年7月にオープンした楽天市場サイト、そして最近スタートしたばかりのYahoo!店の3つのネットショップを運営している。現在の本店サイトは今年の春にリニューアルしたものだが、以前のサイトに比べて、コンバージョンレート、ページビューともに2倍以上となった。会社の理念である「"竹のある暮らし"の提唱」を前面に出しているのが功を奏しているようだ。
「BBCも取材に来た貴重な竹を知ってほしい」とサイト開設
四代目として生まれたときから「自分は跡継ぎだ」と意識していたという山岸さん。竹材商を継ぐことに、何の抵抗もなかったそうだ。
しかしその竹商材だが、かつてはどこの町にもあったポピュラーな商売だったものの、安価でカラフルなプラスチック製品が日本人の生活に浸透していくにつれて衰退していった産業である。
山岸竹材店が111年の歴史を守ってこられたのは屋号である「竹虎」が示す「土佐虎斑竹」を一手に扱ってきたからにほかならない。この竹は、植物学者・牧野富太郎博士の命名による日本の天然記念物第一号で、今では高知県須崎市安和にしか自生しない希少品種である。
加工するために炎であぶると、虎の毛皮のような茶色の模様が浮き出る虎斑竹は、「虎竹」と呼ばれて茶人や風流人から愛されてきた。その珍しさから、イギリスBBC放送が取材に来たこともある。
「それほど貴重で美しい竹なのに、日本中の人はほとんど知らない」というのが、山岸さんがサイトを開設した理由。1997年のことだった。
「当時は何も知りませんでしたから、ホームページを開設すれば、世界中からお客様が買いに来てくれて、濡れ手で粟かと思っていました」
作ったサイトは、会社案内に商品ページが付属したようなもの。ショッピングカートもなく、売るための工夫はほぼないに等しかった。
「売れたのは、3年間でたった300円。唖然としましたね。アクセス解析も知らなかったのですが、たぶんほとんどアクセスもなかったのでしょう」
サイトの閉鎖も考え始めた2000年の7月、山岸さんは高知市内で開催された講演会で「こらからの世の中は、"本物""女性""IT"の3つのキーワードだ」と聞き、自分の始めたことが間違っていなかったと悟る。間違っていたのは、やり方だったのだ。
「ただちに高知県産業振興センターがスタートさせた"e商人養成塾"に第1期生として入りました。ここで塾長の岸本栄治さんと知り合ったおかげで、今の自分があると思います」
「サイトを作ったのに、さっぱり売れない」という山岸さんに、岸本さんは「あんた、今までにネットショップで何買った?」と尋ねたという。何も買ったことがなかった山岸さんに、「買ってもないのに、売れるわけないやろ」と塾長の"直言"が突き刺さった。
「目からウロコというか、カルチャーショックでした。その瞬間に、ネットショップを甘く考えていた自分の目が覚めたのだと思います」
竹虎の変遷
先輩たちの助言で、ネットショップに開眼
1997年~2000年 サイトを開設するも売上げはまったく結びつかず
2000年 ◎船井総研の講演を聞いて、インターネットの可能性を再確認
◎e商人養成塾に参加してネットショップ運営のノウハウを学ぶ
2001年 本格的なネットショップ構築
2002年 ネットの売り上げ2000万円
2003年 ネットの売り上げ4000万円
2004年 ネットの売り上げ7000万円
創業明治27年という歴史を持つ老舗竹材店の四代目である山岸さんが、「竹虎」のサイトを立ち上げたのは1997年のこと。自分たちだけが扱っている希少竹材の"土佐虎斑地竹"が、あまりにも世に知られてなかったことを憂い、会社案内も兼ねてスタートした。
しかし、告知もせず買い物カゴもないネットショップは訪れる人もまばらで、立ち上げてから3年間の売上げはわずか300円。「手漉き竹和紙のオリジナルレターセット」が一つ、売れただけだった。
あまりの惨状に一時は撤退も考えたが、さまざまな人との出会いを生かして再始動。2001年5月から本格的にネットショップとしての歩みをスタートさせた。 先輩たちからの助言で、アクセス解析、SEO、顧客対応などを基礎から学び直し、独自ドメインサイトに加えて楽天市場店、Yahoo!ショッピング店をオープン、売上げを拡大してきた。商品の希少性が幸いして、国内外のマスコミからの取材も多い。
(画像横テキスト) 店舗では虎斑竹をはじめ、さまざまな竹製品を販売。
アジロ編みの篭に和紙を貼り、吹き付け塗装で仕上げた一閑張り買い物かご。
竹虎でもっとも人気のある商品の一つで、健康効果も期待できる竹皮草履。
山岸さんは奥さんともども必死で勉強し、みるみるネットショップのスキルをつかんでいった。メール対応、梱包のテクニック、クレーム処理など恥をかなぐり捨てて聞きまくり、吸収したのだ。
「今、e商人養成塾は6期目です。私だけでなく、多くの人たちが塾長の感化を受けて開眼したのではないでしょうか。そういう意味では、この塾は日本のEC事業に大きく貢献していると思います」
サイトの売り上げが安定したら、新たな"難問"が持ち上がってきた
"e商人養成塾"で学んだことをもとに、山岸さんは自社サイトをフルモデルチェンジし、本格的なネットショップに生まれ変わらせた。01年5月のことだ。
「売上げはどんどん伸びていましたが、日々が勉強の連続でした。これまでに『これで十分』と思ったことなどありません」
サイトが認知されてマスコミの取材も多くなったが、それもまた気を引き締める材料となる。
「あるテレビ番組で虎竹の縁台を取り上げてもらったのですが、その晩に縁台が300台売れました。その瞬間、『売れないのではなく、知ってもらう努力が足りないのだ』と確信しました」
02年7月、山岸さんは本店に加えて楽天市場店のサイトをスタートさせる。本店の売上げを倍に伸ばすより、楽天市場に店を作って、本店並みの売上げを達成するほうが容易だと計算したのだ。
「またしても自分の甘さを思い知らされましたね。システムもできているし、楽勝だと思っていたのに、最初の1年間はさっぱり。がっくりきましたが、企画することが好きだったのと、メールが苦にならなかったので、何とか維持できました。」
またしても山岸さんは勉強に走る。楽天市場の出店者たちで作っているグループに入り、すなおに教えを請うたのだ。
「そこでわかったのは、自分が楽天の売り方を何も知らなかったこと。メールアドレスを集めることの大切さ、それを獲得するノウハウ、メルマガの書き方と発行頻度など、すべて教わりました」
こうして楽天市場店をてこ入れした結果、今では本店と肩を並べる売上げとなった。
その勢いで、つい最近Yahoo!ショッピングへも出品した。
「売り上げが伸びてくると、今度は違う問題が気になるようになりました。一つはスタッフの問題、もう一つは竹職人の後継者問題です」
売上げ規模が大きくなれば、当然スタッフも増員しなければならないが、その確保が地方では思うように進まない。地元の専門学校は「ネットショップなど就職先ではない」と考えているらしく、即戦力になるカリキュラムを組んでいないし、インターシップで学生を招いても「Dreamweaverって何?」「まぐまぐって何?」という状態なのだ。
また、竹製品を世に出していくためには、山に入って竹を切り出してくる人、乾燥した竹を火で加工して材料にする人、材料を加工して製品にする人などが欠かせないが、これがみな高齢者。
「山に入って竹を切り出してくる職人さんの平均年齢は75歳。つい最近引退した人は、90歳でした。製品に向けた竹を見分ける目と、水を含んで重い竹を山から降ろしてくる体力が必要なので、なり手がいません。加工職人、細工職人も同様なんです」
それら両方の"人"の問題を、山岸さんが解決していかなければならない。「竹のある暮らし」を世に提案していくという使命感を全うするために、山岸さんが乗り越えていかなければならない"壁"は、まだまだ続くのだ。「"本気"の戦い」に当分ゴールはない。
(画像左下テキスト) 竹虎の竹細工品は、ほとんどが職人の手作業によって生み出されている。
左は虎斑竹をあぶり、しなりを修正してまっすぐに加工している作業。下は袖垣の組み立て作業。
達人テク1
サイトのリニューアルは理屈ではなく「個人の情熱」が決め手
2005年春にサイトをリニューアル⇒ページビュー&コンバージョレートアップを達成
売れ筋ランキングを掲載、商品一覧や新入荷などのナビゲーションを配置
スキルに加えて商品に対する思い入れを持った担当者がサイトリニューアルを行ったことで質の向上を実現
現在の竹虎サイトは、本店、楽天市場店、Yahoo!ショッピング店とも共通のデザインと構成をとっている。それぞれ特性に合わせた工夫はあるが、全体として大きな違いはない。このデザインになったのは今年の春からだが、担当したのは中途で入社したばかりのスタッフだった。この人は竹製品ができるまでの工程に興味を持ち、山岸さんに頼んで制作現場をじっくり見学したのだという。
「その人が見学しながら涙をポロポロこぼしているのでどうしたのかと聞いたら、『人がこんなに一所懸命にものを作っているところを初めて見た』と言うんです」
そして自分にリニューアルを任せてくれと山岸さんに懇願。その結果できたリニューアルサイトは、コンバージョンレート2倍、ページビュー2.5倍という好成績となった。人を感動させ、引きつけるものを作るには、情熱が必要という好例である。
達人テク2
ネットショップは「究極のマンツーマン」。メルマガは本気で書け!
メルマガ配信⇒お客様⇒顧客のリピート率向上および"濃い"リピータ客を育成実現!!
メルマガは、お客様に向けてショップ側の使命感や商品に対する真剣な姿勢を伝える内容にする
相手が見えないネットショップだが、山岸さんは「見えないだけで、実態はマンツーマン」だと言う。だからこそ顧客対応は真剣に、梱包・発送は細心の注意を払っていかなければならない。その顧客対応だが、山岸さんはメルマガに注力している。楽天市場ではほぼ毎日、本店で週に1、2の発行だが、適当に時候の挨拶を入れ、売れ筋商品を紹介するといった"いい加減"なものではない。
「知っていただき、買っていただくためにはお座なりな言葉の羅列では効果がありません。"敵は自分の中にいる"と常に気持ちを引き締め、自分たちの使命感を"本気の言葉"で伝えなくては意味がないのです」
ネットショップに一番大切なものは、先見性でも現実処理能力でもなく、使命感だと山岸さんは断言する。それがお客様に通じてる証拠に、竹虎の顧客は半分がリピーターだ。中には「メルマガが来るたびに購入してくれる」というヘビーユーザーもいる。昨年1年間で、なんと50回もの購入実績というからすごい。
「メルマガが読まれない」と嘆く前に、「本気でメルマガを書いているか」を自問自答する必要がありそうだ。少なくても、山岸さんは成功しているのだから。
達人からのアドバイス 「必死で」あればあるほどうまくいく
きめ細かい顧客対応や、お客様を満足させる丁寧な梱包、迅速・確実な配送までを考えたら、ネット通販は楽な商売ではありません。私も、竹屋をやっていなければ、この世界に足を踏み入れていなかったでしょう。「珍しい商品を仕入れて、ホームページに載せれば"自動販売機"のように儲かる」なんて、もうずっと昔の話でしかありません。
これからネットショップを始める方にアドバイスをするとすれば、「片手間では勝てない」ので、現在のビジネスで先のビジョンが描けているのであれば、あえてネットショップはすすめません。私のことで言えば、実店舗はほとんど先代とベテラン社員に任せていて、私はネットショップと仕入れを担当しています。それは「竹のある暮らし」をネットから世界に発信していこうという理念があるからで、それがあるから5年間ほとんど休まずに、朝から晩まで働けるのです。このように、ネットショップは必死でなければできませんが、その"必死さ"が強ければ強いほど、うまくいくようです。「自分にはこれしかないのだ」と背水の陣でネットショップを立ち上げ、うまくいった例をいくつも見てきました。必死だから手間を惜しまず、ぎりぎりまで知恵を絞って新しいアイデアを考えらるのだと思います。結局は「本気」の勝負なのです。
虎斑竹というユニークな商材でネット通販事業を試行錯誤しながら行ってきた竹虎四代目の山岸さん。いろいろなグループへの参加を通じて、ネットでの売り方を学んできたこともこれまで続けてこられた原動力の一つとのことだ。
(雑誌「SOHO domain 2005年11月号」より転載)