住の職人
【二十二】竹垣(たけがき) 山岸竹材店
澄んだ青空が広がる午後。無人駅のホームに降りて、冬枯れの里山を見上げると、青々と茂る一角があります。わずかに吹く風にも静かに揺らぎ、葉音を立てているのは竹林。かつては日本じゅうどこででも見られた風景ですが、ここ高知県須崎市安和には、世界でも珍しい竹が生育しているのだとか。
「虎斑竹(とらふだけ)というんですわ。見た目は普通の竹と変わらんのですが、ある処理をすると虎の皮のような模様が浮き上がってくるのです。これがまた、キレイでなもんで。でも、この竹を安和以外の土地に移植すると、不思議なことに虎斑が出んのです。どうも、ここの土に理由があるんやないかっちゅうことらしいですわ」と快活に説明してくれたのは山岸竹材店4代目・山岸義浩さん(38歳)。通称「竹虎の若旦那」。
「″竹虎″はウチの屋号。初代は大阪におったのですが、産地に近いほうがいいということで、終戦後すぐ、安和に移ったようです」
以来、須崎湾と焼坂峠に囲まれた小さな里は、地域をあげて竹の加工に取り込んできました。
「今、店のほうで販売している竹製品は小物を含めると5000種類くらいかな。最近では縁台とか竹ぞうり、買い物カゴ、箸なんかが売れるようになってきましたが、昔からのウチ中心は竹垣ですね」
みんなの熟練の手仕事こそがウチの宝なんです
冬の間に竹取の職人さんが伐採した竹は、刈り取りの終わった田んぼにずらりと並べられ、品質・太さごとに選別され、倉庫へ運ばれます。枝の付け根をきれいに除去したら、虎斑竹はガス炉を通じて、油分を抜きます。数人がかりで、火に当てるタイミングは長年の間に培った絶妙のもの。黒褐色に焼けた表面に鮮やかな斑紋が浮き出ます。同時に、その熱を利用して竹をまっすぐに整えるのが″矯め直し″という作業。担当は職歴40年のベテラン、古谷和孝さんです。「いろいろクセがあったからね。1本ずつ、ちゃんと見てやんないと言うことを聞いてくれんのよ」と帽子の下から一言。
隣の作業室では別のチームが、太い孟宗竹を組んだ枠に、細かく割った虎斑竹を巻き付けていきます。二重に竹を使うことで割れを防ぎ、雨や風にも強くしているのだとか。四万十川流域でとれたカズラのつるで竹格子を結び付けたり、仕上げに飾りを付けたりする細かい作業は女性陣の仕事。その手付きの素早さは相当なものです。「何年もやってりゃ、こんなもの当たり前だわ」と職人さんは丸く屈んだまま、ちょっと照れたよう。
「作業場では農閑期の内職として地域の方々にも長いこと助けてもらっています。みんなの熟練の手作業は、ほんとウチの宝ですわ」(山岸さん)何人もの手を経て完成した竹垣は、虎斑竹独特のつややかな光沢をもち、しっかりとした存在感を放ちます。
「人をきっぱりと拒む西洋の石垣や塀とは違って、内と外で言葉を交わせる。気配も通る。見る人をほっとさせる。竹垣って、なんかやさしいんですよね」。竹を語るとき、にこやかな若旦那の顔がいっそうの笑みに包まれます。
「安和には竹しかないし、私らも竹のことしか知らん。だから竹では負けられんですよね。安和のみんなで、もっともっと竹のよさを引き出していきたいと思っとります」
(右上画像テキスト)
虎斑竹は倉庫から運ばれ、1本ずつ、工場内のガス炉を通じて油分を抜き、特有の色・模様をあぶり出します。処理を終えた竹は、用途・サイズ別にカット。用途によって竹のどの部分を使うかも異なってくるのだとか。
(右下画像テキスト)
虎斑竹の色味を生かし、板状に加工したついたて。竹垣、袖垣は同店にとってはお手のもの。敷地の境界を囲むだけでなく、玄関わきや勝手口、エアコンの室外機の目隠しとしてワンポイントにも使われます。
(左上の右画像テキスト)
竹をあぶってまっすぐ整える″矯め直し″。竹のクセを見抜く目と絶妙な手加減が要求される作業です。ベテラン社員さんが竹と向き合います。仕上げにかかる職人さん。「普段は田んぼをやってるけんど、冬場はここで働いとる。若旦那もちっちゃい頃から知っとるよ。昔から元気のいい子だわね。」
私らは竹のことしか知らんきに。
だから、竹では負けられんです。
(左上の左画像テキスト)
若旦那と同店で働くみなさん。おおらかな南国土佐の気風にあふれた作業場です。竹と一緒に生きてきた人たちの柔和な笑顔が印象的。
孟宗竹の枠に細かく割った虎斑竹を巻き付ける職人さん。割竹1本ずつの節の位置をずらして強度を均一にし、同時に虎斑を美しく見せています。「作業してても手触りがいいよね。たまにささくれが刺さることもあるけど(笑)」
(雑誌「住まいの設計 2002年4月号」より転載)