虫たちそれぞれの表情が楽しい、緻密な竹細工
◎虎竹細工/高知・山岸竹材店
高知県須崎市郊外にある、竹細工職人の辻尚孝さん(69歳)のお宅を訪ねると、ステレオから童謡の「赤とんぼ」が聞こえてきた。
「こういう歌を聞きながら作業をすると、なごむんですわ。夏になると虫を実際に飼ってみて、顔を眺めてやるんです。そして、逃がしてあげるんです」と笑う、辻さん。なかでもカマキリの表情は、見ていてあきないとか。その観察眼は、見事に作品に反映されている。
この虎皮状の模様の入った竹は虎斑竹(たらふだけ)といい、全国でも安和の地(須崎と久礼の中間にあたる山里を、かつてこの地名で呼んだ)でしか生育しない、不思議な竹なのである。
切り出しの小刀を使い、虎斑竹を削いで、張り付けていく。この細かい作業は、辻さんにしかできない。それでも1日に5体つくるのが精一杯なのだそうだ。
「安和でつくられた虫たちが、都会の方の机の上に飾られて、喜んでもらえたらと思っているんです。」実に素朴な民芸品ではあるが、もはや芸術品でもある。この虎竹細工には、辻さんの、虫たちに対する優しさがあふれている。
(画像横テキスト)
・孟宗竹の胴体に、薄く削いだ虎斑竹を張り付けていく。この美しい文様が、虫の豊かな表情になっていく。
・一体は、約5cmほどの大きさ。手づくり故、それぞれ、表情が違う。東京での展示会でも、子供から年配の方まで、多くの人が目を輝かせて見入っていたという。
・「細かい作業なので、明るい玄関先でないと目が疲れます」と、辻さんはいう。山岸竹材店の作業場。熟達した職人がガスバーナーで焼き、その熱で竹の曲がりを矯正する。
(1)虎竹細工(カマキリ)
(2)虎竹細工(バッタ)
(3)虎竹細工(鈴虫ペア)
(雑誌「サライ 2001年6月7日号」より転載)