山岸竹材店
―作り込んだEコマースサイトで竹のある暮らしを全国発信
「ベストECショップ大賞準大賞」「オンラインショッピング大賞最優秀中規模サイト賞」「スーパーおすすめメールマガジン大賞」......。Eコマース界の各賞を総なめにしているのは、高知県の老舗竹材メーカー竹虎(株式会社山岸竹材店、山岸義浩社長)が運営するWEBショップ「竹
虎」だ。
「竹虎」は竹という伝統的な素材をとことんまで掘り下げたEコマースサイト。そこには竹虎四代目こと、山岸義浩氏の竹に対する「思い」と「情熱」が、余すことなく盛り込まれている。商品価値を説明する圧倒的な情報量。それを無理なく伝える軽妙な文章と、思わず竹製品を買ってみたくなる美しい商品写真は、すべて山岸氏自身の手によるものである。
「竹虎」のブランド名は、表面に虎のような黒い斑点模様が入っている虎斑竹「とらふだけ」(虎竹)からくる。虎竹は、同社の本社がある高知県須崎市の安和地区でしか産出されない希少な品種で、英国BBC放送で紹介されたこともある珍しい竹である。1894年(明治27年)創業の同社は、戦後から安和地区の虎竹でさまざまな民芸品や日用品を製造し、卸問屋を通じて全国に出荷してきた。
しかし、山岸社長が家業の竹材店に入社した1980年代後半から、虎竹の産出量は減少の一途をたどる。日本人の生活シーンから竹製品が姿を消し、竹を切っても売れないので山から人が離れ、管理できないため竹林が荒れていく。そしてまた産出量が減るという悪循環で、虎竹の里と同社の事業は窮地に立たされた。
「このままでは自社の商売はもとより竹の文化までが廃れていく。なんとかしなければ」。考えた末にたどり着いたのが、インターネットを通じて全国の消費者に竹製品を紹介しようというアイデアだった。1997年のことだった。
山岸氏は独学でホームページを立ち上げ、虎竹の説明や竹に対する熱い思いをつづった。でも、どこからも全く反応がない。国内のインターネット登録人口がようやく1,000万人に達した頃で、パソコンの世帯普及率も10%以下。インターネットはまだマニアックな男の世界であり身近な存在ではなかった。ネットショップもスタートしたが、開始から3年間で売れたのは、300円の竹和紙のはがきセットがたったひとつ。
万策尽きてあきらめかけた頃、偶然にも高知市で開かれたセミナー「e商人養成塾」に参加。そこで通販サイトの第一人者である岸本栄司さんと出会う。これが竹虎の大きな転機となった。「ネットでは売る人の顔が見えない。店主の顔と人間性を前面に出して信用を得ること」「商品の説明文はお客様に接しているつもりで書くこと」。岸本さんの言葉が山岸氏の心に響いた。
だからWEBサイトの文章と写真は今でも山岸氏自らの手によるものだ。毎日書き続けているブログ、週に3、4回発行するメルマガもすべて本人が書く。「こんなにいい竹がある。ぜひこの竹を知ってほしい」と訴え続ける。渾身の力をこめて作り上げたサイトは数百ページにわたり、掲載されている竹製品の数はおよそ1,000万円を超え、竹虎は「日本一の竹専門WEBショップ」となった。
一方で、広報活動の面ではネットによるリリース配信会社を通じて新商品の情報を発信する程度で、マスコミを介した戦略的なPRはできていないという。とはいえ、インターネットを通じて竹の情報を発信し続けることにより、竹虎がメディアのセンサーにキャッチされる機会は確実に増えている。エコロジーや健康が時代のキーワードとなり、竹のもつ機能性や環境負荷の少なさが注目されていることもあって、今では、連日のようにテレビ、新聞、雑誌からの問い合わせや取材依頼が舞い込む。WEBサイトやメルマガに盛り込んだ新しいトピックスが、間接的にプレスリリースの役割を果たしているのだ。
「インターネットのおかげで今の竹虎がある。地方のメーカーが全国に向けて商売しようとすればインターネットを使いこなす以外になにができますか?」。こうして、ネットの世界で認められ大きな成果をあげている同社であるが、山岸氏は「自分のやりたい活動はまだ全然できていない」という。「竹は生育が早く唯一継続使用可能な天然資源。伝統的な利用の他に新素材としての可能性も広がっている。私が考え、伝えるべきことはまだ山にあるようにある」
(雑誌「ウェブ時代の企業広報」より転載)