日本いいもの再発見第22回
虎斑竹
枯淡の味わいのある虎斑竹。これは淡竹に虎皮状の斑紋ができたもので、現在、世界で唯一、高知県の安和でしか採れないという珍しい竹である。
<山岸竹材店>虎斑竹・自在垣/縁台
庭を風流に爽やかに彩る
贅沢とは、ただ単に希少な素材を使うということではない。たとえば、いくら手の込んだ和風旅館でも、すべてが新しかったなら、それほど感銘は受けないだろう。そこが老舗である証拠とも言える、置かれているものや家屋そのものの枯淡な味わいが魅力なのである。そこに偉大なる時間が内包されているからいいのだ。
時間を買うことはできない。しかし、ご紹介するのはあたかもいい具合に時間が経過したかのような味わいをもつ、自在垣と縁台である。それは虎斑竹という稀少な竹を使うことで出来上がる。なんとも贅沢な、老舗旅館の風情さえもつものなのである。
人の手をかけることで虎斑模様が浮かび上がる。
虎斑竹が最初に発見されたのは、岡山県の美作地方で、大正13年に国の天然記念物に指定された。しかし過度な保護が災いしたのか、絶滅してしまう。移植も試みられたが、気候や風土が合致しないとただの淡竹になってしまい、虎の斑点が出ないのである。
高知県の安和の山にも虎斑竹の元となる淡竹が自生しているのを見つけた大阪の竹材商、山岸宇三郎さんは、虎斑竹の魅力を地元の農家に説き、山に植えることを奨励。二代目になってから店を大阪から安和に移し、日本で唯一の虎斑竹専門店として現在に至っている。自生しているとはいえ、優れた竹になるには、竹林を育ててきた人の大変な手間がかかっているのはいうまでもないだろう。
「竹を見るのは難しい」と四代目の山岸義浩さんは言う。「斑紋は外見では判断しにくく、擦ってようやく判断できる場合もあるのです」。契約農家が伐採したら、太さ(4分から2寸4分までの12サイズ)と種類(虎斑竹、白竹、白竹の上)の36段階に選別。そして割れにくくするために、用途に合わせて部材の両端に「厚い実の入った」節が残るように断裁する。
次に「油抜き」の工程に入る。横長のガス炉に竹を通じ、加熱することで、竹の表面に付着した油性の膜と、中側から染み出してくる油を拭き取る。すると美しい虎斑模様が顔を出す。加熱し過ぎると焦げたり破損の原因になり、その頃合いは長年の勘がものをいう。
そしてその余熱があるうちに矯正を行う。竹は真っ直ぐに伸びる植物ではあるが、意外と歪みや曲がりがあり、それを真っ直ぐにする必要がある。力の要る熟練仕事である。それが済んだら、表面を布で磨くと艶が出る。その後、乾燥することで水分が抜け、青みも消えて落ち着いた風雅な色合いになってゆく。
竹の育成はもちろん、伐採後の加工まで、虎斑竹は人の手が入ってこそ、ようやく虎斑竹になるという点が肝心なのである。
庭に置けば、そこが男の居場所に早変わり。
まず「自在垣」は、全体が虎斑竹で、斜めの井桁に組み、安定のために丸太は焼き杉を使用。脚と丸太は竹釘で固定されている。用途は垣根に、木戸の代わりに、あるいは庭やガーデンの仕切りに最適である。軽いので手軽に持ち運びができ、閉じて立ってられるのでも魅力といえる。
そして「縁台」は、座面の両端に虎斑竹を、座面は黒竹を使用。脚は安定と風合いを考慮して表面を焼いた檜材である。また座面の黒竹を束ねて安定させるために、四万十川流域で伐採された葛を使用。保存のために乾燥させた葛を2~3日間に浸けて柔らかくしてから編み上げている。脚は折りたためるので、使わないときの収納も容易である。
この縁台、庭に置いて自在垣で仕切れば、そこが男の居場所にもなる。縁台で″ビールなどを一杯″、これもまた格別である。
(画像横テキスト)
・庭を風流に彩ってくれる「縁台」と「自在垣」。塩酸などの薬品で焼いたりして斑模様を出す「虎斑竹もどき」の竹細工もあるが、本物の虎斑竹に勝る味わい深いものはない。
・油抜きを行う。表面に付着した白い膜が落ちる。
・余熱を利用して、竹をまっすぐに矯正する。
虎斑竹/縁台
・脚は簡単に折りたためるので、収納にも便利。
・座面の両端は虎斑竹を、座面には黒竹を使用。四万十川流域で採れた葛でしっかりと編んで留めている。
虎斑竹/自在垣
・たたむと幅90cmに。自立するので、収納の際にも便利である。
・竹が構成する菱格子、やや縦長の状態が最もバランスが良い。
(雑誌「Zekoo 2004年夏 第23号」より転載)