竹虎工場内のどの仕事も大切で、どの部署もなくてはならないのですが、竹虎工場での仕事であえて重要度をつけるとしたら、1位は竹の仕入れで2位がこのあいばんだと思っています。あいばんというのは土場で広がった長い竹をトラックに積み込んで工場に入れて来て、竹の大きさや長さによって決められた規格に切断していくところです。
あいばんという呼び名はついていますが、漢字でどう書くかは分かりません。現在はこの場所や仕事のことを切断と呼ぶことが多くなりました。祖父がこのあいばんで座って竹を切断していたころは、前後にその切った竹を捌く人がいたため、その一緒に切断の仕事をしてくれる、相方の人のことをあいばんと呼んでいたようですので、相手をする番の人として相番と書くのが正しいのかもしれません。
このあいばんでの選別とカットによって、1本1本の竹の使い道がすべて振り分けられます。1本1本の竹の大きさや色、素直さや伸び具合などを見て、最適な使い道にカットしていくのですが、まだ油抜きをして綺麗になっている竹ではないので、その良し悪しが分かりにくい竹もたくさんあります。それをちゃんと目利きして、カットしていくのがあいばんの職人の大事な仕事なのです。
固定したノコギリの先の台には、所々にこうして木材ででっぱりを作っています。これはノコギリからの距離の目印で、これに突き当てて規格の長さにカットしていくのです。一番短いものは虎竹手ほうき用の目印の1.7尺(約51.5cm)で一番長いのは15尺(約454cm)の目印です。その中でたくさんの使い道に合わせて、いろんな長さにカットしていく現場なのです。
竹虎で取り扱う竹材は虎斑竹、黒竹が主なものですが、虎竹玉袖垣などの袖垣の骨組みとなる土台用に、孟宗竹も扱っています。孟宗竹といえば日本で一番大きな竹で高さが25mに達するものもあるくらいの大きくて身の厚みのある竹です。
孟宗竹のタケノコは大型で肉厚で柔らかく、えぐ味が少ないため食用にされることが多いようです。幹は真竹などには粘りや繊細さでは劣りますが、大きいために幅広のヒゴが取りやすく、四つ目かごやえびら(竹編み平かご)などの少し荒めの籠やお箸やスプーンなど、カトラリーの材料としても使われています。
一昔前、お正月前のこの時期は、孟宗竹を使っての門松作りに大忙しの時期もありましたので、寒空の中での孟宗竹の入荷は、その頃のことを思い出させてくれて、大変懐かしく感じたことでした。
孟宗竹と言えば、今年の夏に「ザ!鉄腕!DASH!!」という番組で大きな孟宗竹を探してきて、巨大水鉄砲を製作した竹です。今年はいつもにまして孟宗竹と格闘した年でもあったように感じ、孟宗竹をより身近に感じたことでした。
時期的にタケノコの生えるのが一番早い孟宗竹は、もうそろそろタケノコを生やす準備を始めるため、孟宗竹の伐採時期は終わります。時期のいい竹をこうして屋根のある場所に大事に保管をしておいて、大事に使っていくのです。
職人の仕事は、実際にやってみないと大変さが本当にわからないことが多いのですが、自分で山に入ってみて、山の仕事で一番そう感じたことが竹を束ねることの難しさです。それまでは竹の広がった土場の竹を束にしたり、工場内で竹を束にすることしかしていませんでしたが、10数年前に山に入って伐採をして初めて分かったことでした。
切る時期の竹を選別したり、枝打ちしたり、急な坂の山道をスリップしながらも運搬機を上げていくなど、大変なことは山ほどありますが、ある程度想像できる大変なことでした。しかし竹の立ち並ぶ山の斜面の中で、数本の竹を揃えて束することが、これほど難しいことだとは思いもよりませんでした。
虎竹の山は斜面の場所が多く、山の斜面で切った虎竹をある程度の大きさに結束してから、運搬機に乗せて下してきます。伐採し、斜面に倒してある虎竹をある程度の本数で束ねようとすると竹が竹の上に乗る形となって、竹の上で滑って、斜面に沿って滑り落ちていってしまい、束にしようとしても竹が滑って元が揃えられないのです。
そういう時に活躍してくれるのが、この結束用の道具なのです。切り子と呼ばれる、山で虎竹を伐採してくれている職人さんの手作りですので、名前などありません。しかし昔からそれぞれの切り子さんが木製であったり、四角であったりと、形は違いますが、この斜面で竹を結束する道具を手作りし、山で虎竹を束にしてきたのです。
この道具に竹を入れて元を揃えて滑らなくしておいてから竹を束にしていきます。ただそれだけのことなのですが、斜面の山ではこれが無くては竹をヒモで縛って束にすることさえも一苦労となるのです。虎竹を伐採している山に行くと、無造作に、当たり前のように置いてあるこの道具ですが、斜面で竹を結束するのに無くてはならない道具なのです。
竹の長さや大きさを測る道具にはメジャーをはじめ、竹の周りを測る「巻き差し」や割った竹の厚みや幅を細かく測る「ノギス」などがありますが、竹を選別するときに使う道具はこの「分差し」です。分差しと呼ばれるとおり、単位が1分となっている昔ながらの差しなのです。
今では正式なものではないですが、竹の取引には昔ながらの尺貫法での長さを今でも使っています。1分と言えば3.03mmで1寸で30.3mm、1尺で303mmとなります。昔ながらの分差しはもう少し小さいのですが、今となっては当然このような差しは別誂えになっており、これは大きな竹も測りやすくするために大きく使ったもので竹虎にも数本しかありません。
だいたいの大きさは見て、握ってみてわかるのですが、やはりきっちり選別する場合には竹にこの差しを当てて測ることも必要になってきます。竹の伐採時期になり、これを腰にぶら下げて、山から下してきた竹を選別するために土場にいる時間が多くなってきました。
気になった竹はその場で切り落としたり、カットするためにノコギリも必要です。竹のだいたいの長さを測るために出てきた竹で毎年15尺差しも作ります。ノコギリ、15尺差し、そして分差しが選別に必要な3点セットなのです。