竹練り踊り用の竹

竹練り踊り用の竹


毎年11月3日の文化の日は、虎竹の里にある安和天満宮の秋の大祭となっています。自分が子どものころは古い暦通りの日程で行っていましたが、小学生が花取り踊りをし、高校生が竹練り踊りに参加している関係で、最近では11月3日の祝日に合わせて開催しています。


竹練り踊りとは2mほどの長さの竹を持って、踊りながら練り歩き、また竹を打ったり、受けたりしながら竹を割り、おなばれと呼ばれる神様が天満宮の外にある御旅所にお出になる道を清め、作っていく大変大事な踊りです。


安和青壮年会と呼ばれる20代から60代まで、30名ほどのメンバーのいる有志の団体は郷土芸能保存会と協力し、この地域に残していくべきこのお祭りのお手伝いをさせていただいています。虎竹の里の駅や公民館、小学校などの草刈りをしたあと、恒例の竹練り踊り用の竹を虎竹の山に切りにやってきました。


虎竹の山といってもすべてが色のある竹ではなく、色の付かない竹や、色づきが薄くて虎竹としては使えないものも多くあります。その竹を選って、伐採し、竹練り踊り用の竹として使っています。


毎年切る場所は違っているのですが、山主さんの許可もいりますし、その山に入っている切り子さんの了解もいる関係で、自分が話し合って決めています。今年は焼坂の一番てっぺんの虎竹の山までやってきました。若いメンバーをはじめ、こ
こまで登ってきたことのないメンバーも多くいて、この場所を選んでよかったと感じたことでした。


こんなことでもない限り、この悪い山道を上がってきて、この虎竹の山を見る機会なんてなかなかないと思うからです。こんないろんな安和の風景を見て、若い彼らが何かを感じてくれたら嬉しいなと思います。


虎竹の山ですので、色のない、切っていい竹を選る必要があるために、切ることだけはずっと自分の仕事でした。でも毎年のことですので、若いメンバーも伐採に慣れてきて、今年は3人ほどが山に一緒に上がってくれて、自分が「これ!」と指をさすだけで、どんどん切り倒していってくれたおかげで、大変楽な伐採になりました。


竹は枝があり、それを山で鉈で払って落としてくるのですが、それは慣れた年配のメンバーがやってくれ、道まで下すと、踊り用の長さにみんなで切り揃えます。おかげで練習用と本番用含めて約80本の竹もあっという間に切ることができました。


毎年メンバーが入れ替わるため、数か月間、週に2回の練習を繰り返し、こういう竹伐りの行事をやって、やっと無事に秋祭りを迎えられるのです。

虎竹の受け入れ準備

選別作業


一般的にというのは山で束にされ、その1束がいくらということで取引されることが多いようです。その束は例えば直径が約4cm前後の周り寸が4寸(約12cm)の竹であれば14本の束と決まっています。5寸であれば8本、6寸なら6本です。その束でいくらという値段を設定し、その金額で売買が成立します。


もちろん竹の良し悪しで違いは出てきますが、破竹や真竹であれば、そういう規格での売買ですので、山に行ってトラックに積み込む時点で束の数を数えるだけです。


黒竹も大きさによって入り本数が決まっていますので、その規格の大きさごとに分けて、規格の本数にして山から出してくる切子さんもいます。しかし大きさのバラバラな竹を山で選別するのは大変なので、いろんな大きさの竹を束ねて、束ねた周りの大きさが2尺になるように束の大きさを揃えて出す出し方もあります。これを2尺束と呼んでいます。


それに比べて虎竹は大きさはもちろん、色の付き具合や竹の伸びよう、竹の良し悪しなどによって規格が25通りもあるのです。山に生えている虎竹も色つきのものは2~3割ほどしかなく、またその色つき具合も色の薄い物や模様のまばらなもの、片白と呼ばれる片面にしか色のついていないものなど様々です。


山からトラックに積んで下してくる竹の本数は大きさによって違ってきますが、約1000本~2000本くらいです。それを土場と呼んでいる虎竹の選別場に下して、1本1本吟味しながら25通りに選別して分けていくのです。こんな面倒なことをしているのも、日本で唯一の虎竹が出てくるこの虎竹の里だけではないでしょうか。しかしこの作業も虎竹ならではの、虎竹だからこそのこだわりの作業です。


その選別作業で立派に虎竹と認められた竹だけを、この虎竹の里から虎竹として自信を持ってお客様の元にお届けし続けていくことが竹虎の使命でもあり、誇りでもあると思うのです。


朝晩は秋の気配も濃くなり、山に入りだした切り子さんも数名おられます。工場内では新竹と呼ばれる新しく入ってくる竹を立てる場所を空けたり、去年の竹の整理が始まっています。外の現場でもこうして、新竹が出てきたときにまず虎竹を選別する土場の草刈りをして、今か今かと新竹の入荷を待っているのです。

焼坂の整備

焼坂


毎年、虎竹の伐採に入る頃のこの時期に虎竹の山の焼坂の整備が行われます。十数人いる焼坂の山主さんのスケジュールを聞いておいて、地区民運動会やお孫さんの運動会を外しながら日を決めています。今年は運動会が予定通り行われたので、予定通りの日に行うことができました。


今の山の価値は以前に比べるとずっと低くなったとよく耳にします。しかし山の価値は生えている木は当然ですが、道の整備にに大きく影響されるとも言われます。車の入れる道があるとなしでは価値が大きく違ってくるようです。


ずっと昔からこの焼坂の山主さんたちはこの山を大事に思い、自分たちで道を整備してきていたようです。ずっと世話人をされてきた方が亡くなって、しばらくして私が世話人をさせていただくようになったのは、ほんの十数年前です。それから毎年、焼坂の頂上まで約5キロの道を山主さんたちと草刈りをし、2年に1度は重機を入れて、雨が流れて悪くなった道の整備をしています。


そのおかげでほとんど入る人がいない山道を、2tトラックが入っていけるように維持ができているのです。こうして焼坂の山に入って行けて、虎竹を出せるということは当たり前ではなく、この虎竹の里の先人がずっとこの道を守ってきてくれたおかげです。


これからは竹虎がこの道を守っていくことが、この虎竹の里の先人への恩返しでもあり、役目であると、年々高齢になられていく山主さんたちとの整備を通じて、感じた一日でした。

ふつうの水です。

虎竹の矯正作業


竹虎本社工場に見学に来られる方に、虎竹をバーナーであぶって、油抜きし、真っ直ぐに矯正をする作業をお見せすることがよくあります。竹を割った性格だとか、真っ直ぐに伸びるというようなイメージのある竹ですが、倒してみると結構曲がっているものが多くあります。


ご存知のない方も多いと思いますが、竹は3ヵ月で今の大きさに成長します。3ヵ月で他の竹と同じ高さや大きさになって、3年ほどかけて固く、細工や実用に耐えうる竹になっていきます。ですから春先にタケノコが出て、成長した1年竹は夏には大きくなっていますが、まだ柔らかく、弱い竹なのです。


そんな1年竹が大きくなった頃にやってくる台風などの強風にあおられたり、隣り合わせた竹に邪魔されて竹は曲がってしまったりするものなのです。しょうよくと呼ばれる杉や檜の植林の中にある竹が真っ直ぐに伸びているのが多いのは、植林の木に守られているからだと思います。


そんな曲がった竹をガスバーナーで油抜きする際に、真っ直ぐに矯正作業をしています。竹は金属や木材などと同じように熱を加えると柔らかくなる性質があります。ガスバーナーの窯を通して熱くなっている竹を矯め木と呼ばれる職人自作の大きな木の板に、竹の大きさに合わせて数種類の穴をあけた道具を使って、反対に曲げながら真っ直ぐに矯正していくのです。


熱くなった竹の繊維を伸ばしながら矯正していきますが、熱があるうちはまた元のように戻っていってしまいます。それを少しでも防ぐためにこのようにして、水をつけて竹を冷やしているのです。

「マゴ」、「コスベ」、「イチイチ」

虎竹ピクニックバスケット


秋の運動会や行楽で大活躍間違いなしの虎竹ピクニックバスケットですが、この籠は他の一般的な籠とは作る上でちょっとした違いがあるのですが、おわかりになる方がいらっしゃるでしょうか。それはヒゴの種類の多さです。籠を編むのには一種類の同じ長さや幅のヒゴで底から編み始め、立ち上げていくのが一般的ですが、こちらは数種類のヒゴを編むというより、組み合わせながら作っていくのです。


そのヒゴというか部材の呼び名が「マゴ」、「コスベ」、「イチイチ」なのです。「マゴ」は四隅の角に縦にいれてある竹のことで、「コスベ」とは縦横に7本ずつ入れてある骨のことです。「イチイチ」は横にいれていく竹ヒゴのことをそう呼んでいます。ほかにも「小割」、「まわし」、「皮竹」などいろんな呼び名のある部材を組み合わせてこの籠は出来上がっているのです。


虎竹ピクニックバスケット


なぜこんな名前がついているんだろうかと、私がこの籠を習った職人さんに尋ねたことがありましたが、「わしが始めたころからずっとこう呼びよったし、わからんな~」で終わってしまいました。角物と呼ばれるこういう技法での第一人者のこの職人さんがわからないであれば、誰に聞いてもわからないな~と思ったことでした。


名前はさておき、この籠を編み始めるのにはいろんな種類のヒゴがいるので、ヒゴを取るための材料も数種類必要になってきます。その材料を揃え、その長さにカットして、割って、剥いで、やっと制作にかかっていくのです。