
寿司職人であり須崎市観光大使でもあるデイビッド(David Bouhadana)さんが、ニューヨークに茶室を持つという親日家Stephen Globusさんと共に竹虎を訪れてくれた。茶道と竹は深いつながりがあるので、日本唯一の虎竹や竹加工、竹細工について色々とお話させていただいた。

スティーブンさんはトレードマークのように帽子がよく似合っている。カジュアルな時と、正式な装いの時の二つの帽子を使い別けておられるそうだった。ボクも、夏の日差しの強い日には竹編みの帽子をかぶることがあるので、竹帽子の話になった。竹を使った帽子ができないかと尋ねていただいたが、なかなか良い返事は難しい。人の頭の形も大きさも、それぞれ違うため、布や革あるいは植物なら葉の繊維のような柔らかな素材で作られないと快適に使用できない。竹の場合は、かなり細く取ったヒゴでも、やはり硬さがあり、形を維持しやすい反面フィット感を出すのが難しい。

これまでに、自分の頭のサイズに合わせて何度も作り直し、10個もの竹の帽子を試作してもらってきた。しかし、それでもまだ満足のいくものはできていない。一日中被っていると、竹ヒゴの当たる一部分が痛くなったりしてしまう。

もちろん、竹の帽子には大きな可能性があると感じている。竹は軽量で通気性がよく、夏に最適な素材だ。さらに、環境に優しく、持続可能な資源でもあるので、お求めになられたい方も多いに違いない。

だけど、やはり帽子は、まだまだ検討の余地がある。竹の網代笠や、流鏑馬笠などのように素材の特性を活かしつつ、より快適で実用的な竹の帽子には時間がかかりそうだ。

温めているアイデアはある(笑)。ただし、実現はいつになるだろうか。竹細工の世界は奥深く、ひとつの製品を完成させるには時間と工夫が必要だ。スティーブンさんのように日本通で、竹の事も良く知っておられる方にお気に召していただける帽子ができれば最高だろう。まずは、一番のユーザーであるボク自身が快適に使える竹帽子を作ってみたい。

インバウンドで賑わっているニュースを観る事はあるが、虎竹の里のような田舎ではあまり関係のない話だ。そんな事を思っている先日、驚くべきことが起こった。台湾から、一人のお客様が突然に竹虎へ来店されたのだ。何かのついでではなく、まさに竹虎の黒革雪駄を求めて、わざわざ飛行機に乗り、日本へいらっしゃったとの事。その目的は、長年愛用していた「黒革雪駄」の修理をお願いするためだった。
お客様は数年来、ネットを通じて手にいれられた黒革雪駄を愛用されており、履き心地の良さと耐久性に惚れ込んでくださっていた。しかし、さすがに長年使い続けると、どうしても劣化は避けられない。そこで「修理してもう一度履けないか」と考え、直接竹虎まで持参されたのだ。

自分たちも可能な限りご要望にお応えしたい気持ちは山々だが、残念ながら黒革雪駄の修理は難しく、新しいものをご案内することになった。すると、お客様は「これほど履き心地の良い履物は他にない」と、なんと新しい雪駄を二足もご購入されたのだ。しかし、自分達が何より驚いたのは、この方の旅程である。普通、海外から日本への旅行となれば、観光やショッピング、食事など様々な予定を組むものだ。ところが、このお客様は本当に「黒革雪駄を買うこと」だけを目的に来日されていた。他の予定は一切なく、ただ竹虎の店舗へ足を運ぶためだけに台湾から日本へ来られている。この熱意には、自分達も少なからず感動した。

黒革雪駄は、天然素材の持つしなやかさと丈夫さ、そして長時間履いても疲れにくい設計が特徴だ。竹皮の風合いは履くほどに足に馴染み、まるで自分の一部のように感じられる履物へと育っていく。ボクの手に持つ真新しい新品と、台湾かからのお客様のはき込んだ色合いを比べて欲しい(笑)。このような雪駄を、ここまで愛してくださる方がいることに、改めて深い感謝の気持ちを抱いた。海外にも竹虎のものづくりを理解し、共感してくださる方がいる事が自分たちにとって何よりの喜びだ。

今回の台湾からの来客で、改めて「良いものを作り続けることの大切さ」を実感している。日本の伝統のモノづくりに共鳴し、遠く台湾からでも足を運んでくださる方がいる限り、自分達も誇りを持って竹製品を作り続けていく。また、このお客様はボクがいつも着ている作務衣にも興味を持たれ、翻訳機能を通じて話しているうちに決して安価ではないのにご購入頂いた。日本らしさや、日本文化は海外の方にこそ響いているのかも知れない。

水切りに使う竹簾は実に色々なサイズをお求めいただく竹製品だ。惜しい事に、数年前に丸型の簾ができなくなって今ではYouTube動画で懐かしく見るだけになってしまったが、角型のスダレは今でも健在でお使いいただく皆様のご希望をお受けさせて頂いている。
さて、そんな竹簾にお客様から一枚のファックスでお便りを頂戴した。少し長文だけれど、あまりに感動したのでお客様のご承諾を頂いて全文を掲載させて頂く事にした。

竹虎様 FAX 0889-42-3283 令和5年2月4日(土)記入
すだれの注文です。おそば用のすだれを10枚特注でお願いしたいのですが。兄のプレゼントの1枚板の将棋盤のハギの木、正面(横)33cm、たて36cm、厚さ4.5cm(将棋盤は、ヒバ1寸5分)の下に敷くすだれをお願いしたいのです。冬、こたつの上でこの将棋盤を置くと、こたつの熱で、この将棋盤がきしむそうです。大阪の将棋屋さんが、1枚板の将棋盤は下に1枚すだれを置くと良いです。と教えて下さいました。
自宅近くにホームセンターは無いですし、スマホで調べたら、竹虎様のおそば用のすだれが10枚1組以上からお願いできると画面に出てきました。注文して4~5ヶ月はかかると聞いております。スマホにのっていた2021年7月21日の作品のおそばのすだれの様な作りのが良いと思っています。
自宅で一人すごす兄に、将棋なら、一人で本を見ながら練習が出来ると考えました。兄が将棋を気に入れば、いずれ、将棋を一緒にさす相手が欲しくなるかもしれません。兄は現在、●●●●●に住んでいますが、兄がその気になれば行けるように自宅近くの●●●●●に将棋同好会を2ヶ所見つけました。72才の兄に、もっと楽しみを見つけてあげたくて、妹の出しゃばりでは有りますが、この将棋盤の下に敷くすだれも一緒に送ってあげたいのです。将棋をする、しないは兄の自由です。でも、この将棋盤と、竹虎様の特注品のすだれを送ったらきっと兄は喜んでくれると思います。
兄は、私をとても大切にしてくれました。ですから、今度は私が出しゃばらない程度に兄が喜んでくれる事をしたいのです。次の2枚目にすだれの形の絵を書きます。スマホで、皆様の笑顔の写真を拝見しました。何卒宜しくお願い致します。

何よりご高齢になられても妹さんのお兄様を思いやる気持ちが温かい。将棋盤の下に竹簾を敷くなど思いもよらない使い道に、兄妹お二人の人生が重なる。小さく薄っぺらい簾一枚にもお客様の物語がある事を忘れてはいけない。