虎竹の里には極端に少ない日本最大級の孟宗竹 も、日本中どこに行っても目につく山々には生えていて、強い生命力と驚異的な成長力で青々と繁っている。せっかくの継続利用可能な天然資源が、活用される事がなくもったいない、竹が泣いているとお話しさせてもらうけれど、ひとつ注目の竹利用の方法がある。前にもお話しさせてもらっているが、実は、それが牡蠣養殖に欠かせない養殖筏(いかだ)だ。
竹伐り一筋40年のベテラン職人さんに孟宗竹の竹林で伺った話を思い出す。海に浮かべる養殖筏となれば、ある程度の強度が求められると思うが、中が空洞になっている竹の浮力と、身が厚く硬さをも併せ持つ孟宗竹なら理想的な素材なのだ。
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旬を迎えている牡蠣は、フライにしても鍋にしても本当に美味しい。海のミルクと聞いた事があると思う、病原体から体を守る免疫機能細胞は亜鉛が不足するとうまく働かないそうだが、亜鉛を豊富に含む牡蠣を食することで風邪などの感染症対策になると言うから、まさに今の食材。今夜の食卓に牡蠣がならぶ方がおられたら、是非、海から遠く離れた孟宗竹の竹林にも思いを馳せていただくと嬉しい。
この竹の肉厚をご覧いただきたい!孟宗竹 は、さすが国内最大級の竹だけあって直径も大きいが、身も厚みもすごい。虎竹は、独特の虎模様が他の竹にない特徴だが、淡竹の仲間なので身が薄い。なので、このような竹材を見る度に、惚れ惚れしてしまう。身の厚みがあればこそ、握りの太い竹箸や耳かき等が自由に製造できるのだ。
さて、こんな竹杓文字も大きな孟宗竹だからこそ作ることが出来る製品のひとつだ。竹節が、ちょうど首のあたりに入った皮付きは何とも格好がいい。もちろん、自然素材だから全ての杓文字のこの場所に節が入るとは限らない、この竹杓文字は器量良しなのだ(笑)。
ただ、身が厚い分、孟宗竹は虫が入りやすいという事もある。竹材管理が大変な竹材なのだが、それも高温と圧力で蒸し焼き状態にする炭化加工すれば随分と防虫効果が高くなる。
天然の煤竹のように、竹表皮が煤けた感じになった一枚の竹板。割幅は広くて、身も厚い、どんな製品に変えてみようか?ワクワクしてくるような竹素材だ。どんな素晴らしい技術があっても、元の竹があってこそだと、手にしながらつくづく思う。
南方系の植物である竹は、西日本には孟宗竹や真竹、淡竹など大型の種類が多いが、東日本の特に東北まで行くと孟宗竹も少し小振りになるし、竹細工に使われるのは主に小型の笹類が中心になってくる。そんな笹類のひとつ、篠竹 は地方によって呼び名の多い竹材だが、篠竹を野竹とも呼ぶ山の職人さんから、数種類の見本が届られた。一日中、山で伐採していると様々な模様や色合いの入った篠竹がある。実は、この赤や黒の色合いが編み上げる竹籠に影響を与えていたのではないか?そんな仮説を聴いていて時間を忘れた事を思い出した。
しかし、なるほどヒゴにすると篠竹とスズ竹は分かりづらいかも知れない。篠竹は竹質にツヤがなく、スズ竹はツヤがあるのが若干の相異点だ。ある問屋さんでは、つい30年前には年間で2000~3000個ほど篠竹の米研ぎざるを扱っていたそうだ。店主によると、かつては地域には4000人の竹従事者がいて、推定で年間90万個の生産があり、何と米の出荷額と米研ぎざるの出荷額が同じくらいあった時期もあったと言うから驚く。
さて、東北地方には、「真竹より篠竹、篠竹よりスズ竹、スズより根曲竹」という言葉がある。竹の使いやすさ、奥深さを例えて言い伝えられて来た事だと思うが、長年使い込まれた根曲竹などを手にすると、なるほどと納得する事が多い。
「篠竹よりスズ竹」の篠竹であるが、かつて関東あたりでも盛んに編まれた六ツ目編みのメカゴに代表される籠に多用されてきた。篠竹とスズ竹は全く別の竹材ではあるけれど、割って薄く剥いだ竹ヒゴにする見分ける事は難しくなる。大量生産されていた当時は、竹ヒゴにした状態で内職の編み子さんに届ける場合がほとんどで、骨竹に篠竹、編み込みにはスズ竹を使う細工もあったため、ふたつの竹材が混在していた。
そこで、職人の中にも篠竹とスズ竹を区別しない方もおられたため、竹虎では現在でもスズ竹市場籠にあえて「篠竹」と明記をつけている。
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ちなみに、スズ竹ではこんな緻密なアタッシュケースを製作させていただく事がある。自分も特別な日には手にして出かけるが、気持ちがシュッと引き締まって心地いい。
良く見かける竹垣の一つに建仁寺垣 がある。京都の建仁寺に由来している竹垣だが、縦割した竹を隙間なく並べているのが特徴で、目隠しとしては最適だ。竹虎でも、別誂えで製作する場合、この建仁寺垣をご指定される事が多く、やはりお客様にも一番知られている、代表的な竹垣なのである。
建仁寺の原料は、日本最大級の竹である孟宗竹だ。虎竹で製作させて頂くこともあるのだが、直径の小さな竹では割幅が狭くなり、平らに仕上げることが出来ない。
孟宗竹を6尺(180センチ)に切断し、切り込みを入れている。これを一枚づつの長い竹板にして、竹節を取り除いた後に湯抜きする、青々とした色合いは、この工程で白っぽく変色する。
これを、広々とした土場に天日干しして建仁寺は完成する。近年は、竹伐採の職人や加工の職人不足から竹材が足りなくなりつつあり、ひとつの課題となっている。
輸入竹材やプラスチック製品ではなく、いつまでも国産の建仁寺垣が普通に製作できるような日本の竹であってもらいたい。
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別注で製作された煤竹菓子楊枝は、お客様にも喜んで頂いているが、煤竹 がせっかく出て来たついでに少し竹材についてお話しさせていただきたい。
囲炉裏の生活は、今や贅沢で料理屋か高級旅館など、ごく限られた所でしか目にすることはないのではないだろうか。毎日の煮炊きや暖房に使われていた時代は、家中に煙が漂い天井裏に使われていた竹材が知らぬ間に燻されていた。
煤が付いて真っ黒になった竹を洗い、火抜きすると残っていた油分で、このような自然の光沢が生まれる。
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何と数年前までは、この煤竹はじめ銘竹が田園の広がる民家の倉庫で市が開かれ取引されていた。
染め竹と煤竹を間違えられる方もいる、炭化竹といって熱と圧力で短時間で煤竹状にした竹材もあるけれど、長い年月を経て自然に生まれる煤竹には及ばない。
そんな煤竹で編まれた究極のバッグ 、網代編みの巨匠である渡辺竹清氏がてがけた最後のひとつだ。
同じ携帯箸でも、煤竹は存在感が違う。
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竹林で見る竹は真っ直ぐに伸びて気持ちがいい、強い風にもしなって折れない強さにいつも憧れる。でも、その強靭さはどこから来るのか?といえば、決して目立つことのない地下茎にある。
竹根は地面の下で縦横無尽に伸びて、それぞれの竹と繋がっているが、この竹根がまた丈夫。
印鑑などに使われるのは、竹の地下茎の部分だ。
竹根を活かした香合は、使わずともインテリアにできるほどの存在感だ。
竹根は虫が喰く事が多く、管理が難しい。大きな竹根を数年乾燥させて削りだし漆で仕上げた茶碗は、それぞれ景色が違って本当に面白い。
蒸し暑い日が続いてくるとお問い合わせが多くなる竹製品のひとつに黒竹玄関すのこ がある。作り始めたのは、もう二十数年前になるだろうか?それ以来、細々とではあるもののロングセラーとして沢山の方にご愛顧いただいてきた。使用する竹は、虎竹とは種類の違う、黒竹という黒さと細さが特徴の竹で、虎竹の里のすぐ隣町がこちらも江戸時代から知られる特産地だ。
素足で歩くと本当に気持ちが良いので、玄関やベランダでお使いの方が多い、それぞれのご自宅に合わせて別誂えのご注文も多く、その都度長さや高さを変更して製作させてもらっている。
虎竹袖垣に並べると同じくらいの長さがある、こちらの別注品は長さが180センチ、高さも玄関に合わせたサイズに変更している。
同じように美しい黒竹が並んでいるが、こちらは玄関スノコではなく、アメリカ在住の尺八作家レベンソン(Monty H. Levenson)さんにshakuhachi(Bamboo Flute)製作用として届ける黒竹素材だ。笛竹の産地がついに国を飛び越えて海外にまで送られ、人を和ませる音を奏でるなんて素晴らしいと思う。
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黒竹を使ってカリフォルニアで製作される尺八とは、一体どんな音なのだろうか?関心のあられる方は、前に竹虎の工場で演奏したレベンソンさんの動画をご覧ください。
朝堀り筍を使った鏡煮は、拝見した段階で気品を感じて降参だ。創業明治5年の筍料理「うお嘉」さんで頂く逸品の中でも、名物と言われるのが納得の柔らかさ。高知で筍と言うと、竹林で黒々とした三角頭を突き出した姿を想像するが、京都の畑そのものの竹林で収穫される筍は、地表に隠れているものを専用の道具で掘り出すのだ。
だから、いつもの筍と一線を画す柔らかさ、なんとも雅な味わいを堪能できる。
土佐は鰹のタタキだが、ここ京都では筍のお造りだ。食も所変われば、これだけ違う。
これが又、筍の味をしっかりと感じる事のできる木の芽焼き、一番好きな料理だ。
筍は、そのままでも、煮ても、焼いても、蒸しても、揚げても美味しい。
そして、やはり最後には筍ご飯が最高です。
うお嘉さんでは、筍の佃煮まであって本当に筍づくしなのだ。
こうして味わい尽くした筍は、孟宗竹だ。その孟宗竹の筍を採らずに20数メートルの大きさに育った竹を、竹職人の手で人工的に作ったのがこ店の壁面に使用されているゴマ竹 だ。同じ竹が、食べ物てしても、建材としても人の舌や目を楽しませ、役立っているのだから素晴らしい。
お時間ある方は、こちらもどうぞ!京の竹職人が作る竹の世界
→ ゴマ竹の作り方
いよいよ明後日から台湾での世界竹会議だが、今回は更に台中繊維博物館で開催される国際竹工芸フォーラムにて講演させて頂く予定だ。台湾には優れた竹工芸が数多くあるけれど、その竹の技を支えているのが、前に現地を訪れた際に良く見かけたタイワンマダケではないだろうかと思っている。そこで、今までは見るだけだったタイワンマダケを実際に手にしてみる事にした。
実は、台湾真竹は日本にも1913年に導入されたと言うことで、数量は多くはないが成育している。耐寒性もあると言われるけれど、元々が温かい地域に育つ竹なので日本ではあまり太くならないようだ。同じ「マダケ」と名前が付いていても、一番異なっている所は筍かも知れない。タイワンマダケは柔らかく甘みがあり食用としても多用されると聞くが、日本の真竹は「苦竹」と書くこともあるように苦みがあるからか筍を食する機会は少ない。
そんな台湾真竹は、桂竹(けいちく)とも呼ばれており、見た目はスッーと節間伸びた美しい姿だけれど、実際に触ってみると節も低く竹編みにしやすそうな竹材だ。
台湾 では人の暮らしの中に、まだまだ竹ざるや竹籠が普通に使われていて嬉しくなった覚えがある。
割って竹ヒゴにした感じは粘りがあり、やはり竹細工には適しているようだ。
そう言えば、産地に行けば色々な竹籠があったのを思い出す。もしかしたら全く知らない竹を使った、想像もしない「竹」に出会えるのではないか?あるいは日本と同じ竹に感動するのかも。竹は知れば知るほど奥が深い。
孟宗竹の古材が沢山積み上げられている工場で竹割機を使った仕事が始まった。大きな竹材の表面には、あちこちに虫穴が開いていたが案の定、竹を食う害虫のひとつベニカミキリ の登場だ。竹材の大敵のカミキリ虫には、虎模様になったタケトラカミキリと、この枯れた竹に一際目立つベニカミキリの二種類がいる。
ちょうど、この季節は竹材の中で越冬している。これが温かくなってきたら次々に中から飛び出してくるから堪らない。チビタケナガシンクイムシなどとは比べ物にならない大きな穴を竹に開けてしまうのだ。
更に近づいてみる、せっかく気持ちよくお休みの所申し訳ない気持ちもするが、他の竹材を食してしまう事を考えると迷わず退治するしかない。竹の害虫のしつこさには例年閉口してしまうが、こうやって成虫でも幼虫の姿でも越冬しているから完全に対処するには薬剤処理しかない。
もちろん、室内に使用する竹製品だったり、手に触れる竹細工、口にいれる竹箸など、竹には薬剤を使えない物が多い。そもそも薬剤を現場で使用するのも好きではないので、竹は伐採時期や管理、メンテナンスで対処していくしかない。何を呑気なと言われるかも知れないが、長年付き合っているとベニカミキリなどの害虫も、そこまでキライになれない気持ちが沸いてくる。
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