高知県須崎市安和の虎竹の里では、新年の来月下旬にかけて、1年分の虎竹を伐採し、山から運び出す「山出し」が行われている。今年の虎の模様はどうだろうか?この作業は、熟練の職人たちが急勾配で足場の悪い竹林で一本一本丁寧に竹を伐り出すという、大変でありながらもやりがいのある仕事だ。
それにしても、竹林に広がる凛とした空気を吸い込みながら作業をする時間は、心を落ち着かせてくれる。一本、また一本と美しい虎柄模様に出会うと苦労が報われたような感動すら覚える。
そして何より、伐採した虎竹が、様々な製品に生まれ変わり、全国の多くの人々にお届けできる事を想像すると、自然と笑顔になってくる。この竹が、どこかで誰かのお役に立つ日を来ると思うと、竹林での汗も心地いいものだ。
虎竹伐採は、単なる作業ではないと思っている。少なくとも江戸時代から続いてきた伝統を守りながら未来へつなぐ大切な営み。その中には、自然への感謝と敬意が込められており、ボクたちに自然と人とのつながりを改めて教えてくれる貴重な時間とも言える。
虎竹の竹林は、窒素、リン酸、カリウムをバランスよ含んだ粘土質の赤土土壌で、竹の根がはりやすく大きく育ちやすい。陽射しの差し込む竹林で伐り出した虎竹は、運搬機を使い、トラックに載せて選別場まで運ばれる。選別場では、太さや品質、用途に応じて一本ずつ手作業で選別され、適切な保管場所に収められるのだ。
虎竹伐採に携わる職人たち仕事が、虎竹製品の品質を支えている。もし、虎竹製品を手に取る事があれば、その背後にある自然との共生の物語に思いを馳せてみていただけると嬉しい。
車で知らないところを走っていても、気になる竹林ではついつい立ち停まってしまう悪いクセがある。この竹林もそうだ、何という事はない何処にでもありそうな、手入れされていない少し鬱蒼とした竹藪が気になってハザードランプを付けた。
暫らくは人手が入っていない様子の、立ち枯れした孟宗竹が目立つ普通の竹藪だ。このような場所にくると、やはり蚊が多い、さっそく耳元に嫌な音が聞こえてきた。同じ竹林でも、手入れされた虎竹の竹林などでは蚊がほとんどいない。
そうそう、竹酢液の蚊除け効果を実証しようとして竹林に入ったものの、あまりにも蚊がいなくて実験を中止したYouTube動画があるくらいなのだ(笑)。
まあ、それはさておき。孟宗竹の竹藪の向かい側には同じ竹かと思いきや、立派な真竹が伸びている。太い真竹の材料が無くなって編めなくなる籠もあるので、このサイズの真竹をみると少し伐りたくなってくる。
さて、この孟宗竹と真竹の間には一本の舗装された道路が種類の異なる竹を分けるように通っている。竹は成長力が強く、根が縦横無尽に伸びて森林を侵食すると言われるけれど、このような道を境にしてお互いの棲み分けをしている。もっと小さな人が歩けるくらいの道であっても案外お互いが侵食する事はないので不思議なものだ。
竹虎には、環境意識の高いお客様が多いので、成長が早く環境に優しい竹材に関するお問い合わせを頂いている。そんな中に、竹トイレットペーパーに関するご質問があった。「放置竹林の循環を目指す...」とあったそうで、現在国内で問題となっている竹林活用の解決に繋がるのでは?との事だったが、結論から言うと残念ながらご覧になられたものは輸入品であり、今のところ国産の竹でトイレットペーパー用の紙を製造するのは、竹材確保が容易でなく難しいのではないかと思う。
何を隠そう、高知は土佐和紙の伝統が息づく土地柄なので、自分達も虎竹を使った、虎竹和紙を作った経験があるので紙作りには関心がある。15年ほど前だったと思うが、日本で唯一竹紙の製造をされている鹿児島の中越パルプ工業さんを訪ねた事がある。こちらには、地域の竹材を集める仕組みがあり、竹材を粉砕する大型施設、さらに見上げるような大量の竹チップの山があって驚いた。
竹活用のひとつとして、竹紙、あるいは竹繊維はずっと前から考えられてきた事だが、大量生産となると日本の竹林は簡単ではない。竹林面積が約16万haで東京ドーム2100個分に相当すると言われても、森林面積全体からすれば、わずか0.6%に過ぎない。その竹林が点在する山々も、実際に足を運べは急な斜面や整備されていない山道も多く、コストが引き合わない。日常的に使用する紙を、国産の竹で製造するのには技術革新、人の意識革新が必要だと感じている。
大きなトレーラーには、10メートル以上ありそうな竹が満載されている。これほど大きな孟宗竹を、長いまま運んで行くなんて、少し竹の事に詳しい方なら「何事か!?」と思われるかも知れない。全国に広がる竹林で、用途がなく悪者扱いすらされている孟宗竹を、一体誰が何に使うというのだろうか。
実は、これらの竹材は牡蠣養殖用の筏に使われるために運ばれている。今時、竹を使った筏なんて...もっと耐久性のある素材がありそうなのに...ごもっともな感想だ。しかし、これには昨今の環境問題が関わっている、そう海洋プラスチックによる海の汚染だ。
海に流されたプラスチックが、小さな破片となるマイクロプラスチックは皆様を耳にした事があるかと思う。自然界で分解されないプラスチックに替わり、天然の竹を使う動きが広がっているのだ。
このような太い孟宗竹たちにとっては朗報、加速してもらいたい動きだ。
数年前から竹林に兆しがあって、120年に一度のタイミングというのは本当なのだなあと自然の摂理に感心もしている。すっかりお馴染みになった竹の開花なので、最近では車を停める事もなくなったけれど、久しぶりに道路脇にある竹林に立ち止まった。
このように枯れたようになった竹林に気づいて、聞かれる事やお問い合わせをいただく事もある。少し前は部分開花もあって、テングス病という植物の罹患と間違える方もおられたが、開花が進んでくると違いは一目瞭然のようだ。
意外に思われるかも知れませんが、竹はイネ科だ。真竹や淡竹は120年に一度しか花を咲かせないので、稲穂のような竹の花を普通に見られるのは貴重な体験だと思う。
部分開花した竹の花を、山の職人さんが届けてくれた事が何度かあった。しかし、開花の周期があまりにも長いので、竹林の持ち主の方でさえ一体何が起こったのか?と驚く方ばかりで、竹の事は身近でも知られていないのだと改めて感じている。生命力にあふれる竹が、開花と共に竹林全体が枯れていく不思議に、かつては災害など不吉な前兆とも信じられていた事がある。確かに、縦横無尽に地面に根を張り巡らせている竹なら、もしかしたら何かを察知しるのかも知れないと言われる方もいる。そんな神秘的な雰囲気さえある竹だが、すべては大自然のサイクルではないだろうか。
梅雨入りして本格的な雨はまだ降っていないものの、この時期になるとどうしても河川に植えられている防災竹林が気になる。今までに何度か話をした事があると思うが、小さい頃には竹が川辺に良く生えているのを見て、竹は水分が大好きだから川の近くに茂っているのかと思っていた。実はこれは、半分当たっており、半分はハズレている。竹の成長に豊富な水は必要だが、川岸に竹が生えているのは偶然ではなく、人が大水対策のためにわざわざ植えたのだ。
大雨の降った後の河川を上空から見ると、大量の土砂が海に流れ出しているのが一目瞭然だ。普段は穏やかな流れも、雨季の洪水時となると水流が強くなり恐怖心を感じる事すらある。急流は堤防の浸食や氾濫を起こす事もあるから、縦横無尽に根を張り巡らせ天然の鉄筋コンクリートと呼ばれる竹林が重要な役割を果たしてきたのだ。
高知など温かい地域では、南方系で株立ちの蓬莱竹(ほうらいちく)という竹が川の防災に一役買ってきた。この竹は真竹や淡竹と異なり、竹根が横に広がらないという特徴があるので堤防にピンポイントで使われている事が多い。
虎竹の里の近くの河川にも大きな蓬莱竹があって、ある時丸坊主のように伐採されてしまった事がある。しかし、たとえ稈をすべて切られてしまっても、それで枯れてしまうほど竹の生命力はやわではない。
しっかりと土壌をつかんだ強靭な竹根がある限り、ふたたび芽を出し復活する。伐採される前の堂々とした姿になるのには、そんなに時間は必要ないかも知れない。
虎竹の里にある竹林に続く山道は、どこも急峻な斜面を曲がりくねって延びているので雨が降ると仕事ができない。だから、あまり雨降りや雨上がりに竹林に行く機会は少ない物だけれど、この日みたいに早朝に雨が上がった竹林というのは又格別な趣がある。
竹は本来、温かく雨の多い地域に成育する植物だけあって雨が大好きだ。いやいや多くの生き物にとって水は無くてはならないものだし、「雨後の筍」と言われるように水分が豊富だと筍の成長は促進される。
でもそれだけではなく、雨降り後の竹は妙に喜んでいるように見えるのだ。虎竹は淡竹(はちく)の仲間で、表皮には蝋質の白い粉がふいたように見えているのが、雨に塗れると隠れていた虎模様がクッキリと浮き上がる。だから余計に生命力に満ち溢れている様に思えるのかも知れないが、それだけではない、と思う。
まあ、何はともあれ竹の中へ。
高知から東京に行く場合、夜行バスなどを除くと、多くの方が羽田空港行の飛行機に乗るのではないだろうか。ボクも出張の際には、羽田空港を使うので少しだけ馴染があるが、実は昨年7月から羽田空港第2ターミナルから国際線が発着するようになっているそうだ。
今までだと海外に行く場合は、乗り継ぎで第3ターミナルに移動しなければならなかったのが、路線にもよるけれど同じターミナルから出発できるので時間も短縮されて本当に楽になっている。
だから、地方から海外へ行く場合にも、海外から来日される観光の方にとっても、かなり便利になったのではないかと思う。以前の国際線へのターミナル移動のつもりで来ると、田舎者のボクでも乗り継ぎがあまりに早く、簡単すぎて拍子抜けしてしまうほどだ。
さて、そんな新しく出来た羽田国際線の中に竹林があるからと、知り合いの社長さんにご案内いただいた。確かに竹があるとは聞いていたが、本当に物凄い竹林だ。
広い空間を、凛として真っ直ぐに立ち並ぶ姿が心地いい。この日はお客様も少なかったせいか、空港とは思えないような竹林の静寂さを感じて心が落ち着いてくる。
このような竹林を背後に感じながら座るソファはどんなだろうか?さぞ、ゆったりとリラックスできそうだ。
煤竹にも似ているけれど、この竹は炭化竹だ。熱と圧力で加工されているので防虫効果も高く、色合いも場所にマッチしていて素晴らしい。海外に出発する前に、改めて日本が竹の国だと感じながら時を過ごせるのではないだろうか。
竹の旬と書いて「筍」、まさに季節ならではの美味が、今年も本場京都から届いた。この丸々とした形は早堀筍と言って、まだ地表に顔を出す前の筍を専用の道具で掘り出して収穫されている。地面から大きく伸びた馴染の筍も食べ応えがあって美味しいが、さすがに京都の雅を感じさせる筍は味も上品だ。できるだけ早くいただかねばならないので早速美味しく頂戴した。
竹林には地下茎が縦横無尽に伸びていると、いつもお話しさせていただくが、そんな地下茎から毎年こうして筍が生えてくる。あそこにも!ここにも!と思ってみていると、竹林は本当に筍だらけだったりする。
そして、その筍の成長力が凄まじい。十分な水分があれば、1日に1メートル以上も伸びて行くので、少し山に行かないと、竹林の景色が変わって見えるほどだ。
現在、竹の利活用は全く不十分だが、ほんの数十年前までは多くの竹林が人の手によって管理され、筍が大きくなる過程で脱ぎ落としていく竹皮までもが製品として収入の一部になっていた。
それにしても、さきほど竹ざるにのせていた小さな筍が、わずか3カ月でこのような20数メートルの大きな竹になるなんて信じられるだろうか?神秘的とも言える竹の力、持続可能な社会にむけて竹の果たす役割はもっとあるのではないか?そんな問題提起が、今週はじまる世界竹会議台湾でも交わされる。
春雨で水かさも少しましている土手では「あの蓬莱竹」が新しい枝を伸ばしてイキイキと復活しつつあった。「あの蓬莱竹」とは、虎竹の里の隣町にある鰹の一本釣りでも有名な漁師町久礼を流れる川岸にある大きな株の事だ。いつだったか根元から綺麗サッパリ伐採されてしまっており、ビックリして思わず動画を撮った蓬莱竹なのだ。
YouTube動画をご覧いただきますと、今は川の流れに沈んでいる根元部分が、いかに巨大で川岸をしっかりと堅固に守っているかがお分かりいただけると思う。竹は、このように竹細工として生活用品として、仕事道具として人の役に立つだけでなく、防災機能としても大きな役割を果たしてきた。
川の流れに沿って五三竹の竹林が続いている。大水が出た時には、手前の田畑を守るためにずっと働いてきた竹たちだ。平常時は、もちろん竹細工や箒の柄などとしても適時伐採され使わる事によって、手入れ管理されてきた地域の竹林だ。
普通の方は、あまり意識していないけれど、川岸にポツリとある竹林に見覚えはないだろうか?大きく川が蛇行するポイントや、流れが合流する場所に竹が植えられている事も多い。
川下の向こう側にあるのが蓬莱竹。株立で横に根を張らず広がっていくことがないので高知や九州など温かく雨の多い地域では、一番よく見られる竹のひとつだ。この竹は節間が広く、柔軟性に富んだ竹質で古老の職人ほど好んで使う。近年、若い職人が使わないのは、この竹材を知らない事と、竹細工と地域の暮らしの距離が離れてしまったせいである。