早いもので今年も虎竹伐採の季節がやってきた。虎竹 とは、表面に虎皮状の模様があり、全国でもこの地域でしか成育しない珍しい竹だ。虎竹の伐採、そして山出しは、高知県須崎市安和の虎竹の里で毎年晩秋から1月下旬までのシーズンに行われる。この期間に、一年分の材料が山から運び出される。
虎竹は良質な親竹を残しながら、間引きされながら、伐り出される。伐採された竹は運搬機で山を下っていく、運搬機は曲がりくねった道でもスムーズに竹を運ぶ事ができるように改良されている。虎竹は地域の宝であり、この伝統的な作業には、多くの人々の手間と情熱が注がれてきた。
竹林での伐採、山出し、土場での選別を経て工場に入ってきた虎竹は例外なく油抜きという加工が施される。700度の高温になるガスバーナの窯に入れて余分な竹の分を取り除くと共に耐久性を高め、独特の虎模様を美しく浮かび上がらせるのだ。今年最後となった虎竹の油抜き作業を動画にした、百聞は一見にしかずだから、油抜きした時の熱を利用して竹の曲がりを矯正する「矯め直し」工程にも注目してご覧いただきたい。
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「竹屋は、何がなくとも火を使う仕事だ」父が、そう言った事がある。虎竹は油抜きという加工工程があり、その事を話したものだ。独特の虎模様がある虎竹だが、元々竹林にある時からその模様がある訳ではない。伐採して工場に運び入れてから、700度のガスバーナーで熱を入れると竹が汗をかいたように油分が噴出してくる。
その油分をウエスで拭き取ると、淡竹の特徴である白い蝋質が取れて虎模様がクッキリと浮かびあがる。
竹表皮の輝きに、何か塗料を使っているのですか?と聞かれた事もあるけれど、当然そのようなものは一切不要だ。竹の天然の油成分だけで、虎竹はこのように美しく輝き始める。
今まで何度かご紹介した事のある虎竹油抜き加工を、今回改めて動画を撮り直してみました。
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雨が降ると竹林の仕事はお休みだ、急峻な山道の続く虎竹の里では機械も入る事ができなくなる。しかし、雨の後の竹林は格別でもある、やさしい陽射しが差し込んできたりしたら、知らない方でもここに何か不思議な存在がある事を感じずにはいられない神々しさだ。
この美しさはどうだ。恵みの雨に歓喜している虎竹たち。
竹表皮が濡れた虎竹は、まるで油抜き をしたかのように艶やかに輝き、模様が浮き上がってみえる。だから数十年も虎竹選別をしてきた熟練も、分かっているつもりでも目を奪われるので、夜露が乾くのを待ってから仕事をしていた。
ここ台湾新竹は風の強い所だと言う。激しい雨と風で、覚悟して臨んだ第12回世界竹会議台湾(World Bamboo Congress Taiwan)だが、日頃の行いか?やはり竹の神様に違いないのか、竹トラッカー走行の時間が近づくと嘘のように晴れ間が広がった。虎竹の里がそうであるように、晴れた後には格別の景色が広がっているものだ。
竹は秋から冬場にかけて伐採するから今頃の竹虎工場には、虎竹原竹や真竹、孟宗竹、黒竹など竹材が豊富に揃っている。虎竹は、これから合間を見ながらガスバーナーで油抜き加工していくし、太い真竹は茶碗籠や脱衣籠などに、孟宗竹は袖垣の柱に使う他は、エビラ籠や国産竹ざるなどに多用する。黒竹は虎竹縁台、別注でのご注文も沢山いただくようになった玄関すのこ にも使っている。
虎竹の伐採は終わっているが、山の仕事が全て完了しているワケではない。実はまだ竹林から出てきていない竹材もある、日差しのあたる土場よりも木々の繁った山道にそのまま置いてる方が都合が良い事もあるのだ。
そこで、山出しに使う竹材運搬機は今でも待機中だが、本当に長く活躍している働き者だと感心する。
この機械の足元に使っているゴムクローラーをご覧いただきたい。人で言うなら靴底にあたるかと思うけれど、これだけ靴を履き込む事があるだろうか?虎竹の里の険しい山道を一体どれだけの沢山の虎竹を支えて下ってきた事か!感じ入らずにはいられない。思わず頭をさげた、感謝感謝だ。
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名人作の虎竹耳かき が長い間欠品となっていた。名人作と言うくらいだから、職人が限定されているから製造が間に合っていなかったのか?実はそういった事ではなく、ただ単に竹材がなかっただけなのだ。こんなに小さい耳かきだけれど、ご愛用いただいているお客様ならお分かりのように持ち手はかなり太く持ちやすい。
なるほど厚みのある立派な竹材を厳選しているのは分かるけれど、それでも竹林を見れば沢山生えている。竹が増えて困っている話ばかり聞いているし、毎年沢山虎竹が竹林から出されるのだから、さすがに足りない事はないだろう?そう思われるのが普通だ。
ところが、本当に直径が太くて身の厚い虎竹というのは貴重である。それで色付きがあって、3~4年竹の頃合いともなれば竹林の中を探し回って伐らねばならない状態だ。
厚みがあって、節間の長さも必要な虎竹男箸なども同じ理由で度々品不足になる。決して沢山販売されているワケではないが、作られる量が少ないのだ。
虎竹は淡竹(はちく)の仲間だけれど、そもそも淡竹は身が薄いのが一つの特徴でもある。竹林を見て回っても今の状況が急に変わるという事はないので、これからは製品自体の規格を少しづつ見直していかねばならない。虎竹に合わせて自分達の仕事や、作る物を変えていく、まさに自然だ。
この季節、虎竹 の里の山々は賑やかだ、どうかすると山の麓にまで山仕事の音が聞こえて来る。道に迷ったと言う、汗だくのお遍路さんに次の目的地の岩本寺までの道のりを話している間も、竹の音はひっきりなしだから心地がいい。
山出しの機械を置いてある竹林への小道は、先人が繋いできた竹の道だ。虎竹の里には、このような竹を運び出すための小道がまるで毛細血管のように沢山延びている。
画像ではお伝えしにくいのだが、どの道も険しく曲がりくねっているから登っていくだけでも大変だ。
全国の竹林を訪ねて回ると、竹の種類にもよっては意外と一年通して竹の伐採をしている所も多いけれど、虎竹の里では昔から竹伐りは晩秋から1月末日までと決められている。
ここには今年のシーズンから何度も通って整備してきた、しかし竹林の表情はその都度変わる。手入れされた竹林は神々しささえ感じて、いつも時を忘れそうにさえなる。
伐り倒された虎竹が、ずっと向こうの竹林まで見えている。
虎竹の虎模様の色付きは、土中の細菌の作用と言われるが気温も大きく影響している。近年の温暖化、暖冬で竹の色合いは芳しくない年が続いているけれど、ここの竹はなかなか良い竹がありそうで安心する。
こんな事を人に言っても信じないだろうが、帰ろうとしたら虎竹たちが「まだ帰るな」と騒ぎだす。今日のブログには間に合わないけど、動画に撮ったからYouTubeに後日アップします(笑)。
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虎竹 は虎模様が表皮に現れる独特の竹で、虎竹の里の山々でしか成育しない不思議な竹でもある。工場に来られた方は、皆様沢山の竹材に驚かれるので、自分達では当たり前だと思っていた竹ばかりの工場が普通ではないのだと知った。それでも、近年は竹材の量が圧倒的に少なくなったので、もしかしたらあの当時に来られていたのなら腰をぬかしてしまうかも(笑)などと夢想する事もある。
しかし、少なくなったとは言えこれだけの竹材が、しかもこの地域でしか伐採されていない竹が、こうして工場の中で出番を待っているなんて考えたら日本中探してもないのだと思う。もっと大きくて、設備が整った工場など山ほどあるに違いないが、虎竹が立てられている場所はここだけ。それが少なくなくとも、文献が残っているだけでも江戸時代から脈々と続く伝統だ。
チェーンソーのオイルの香りが漂ってきた、今年も、そろそろ竹伐採が近づき、山仕事の準備がはじまりつつある。
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高知県には鰹と坂本龍馬の他にも、この土佐の風土と文化が生み出した日本唯一の虎竹がある事を知って欲しくて、その想いが強くてYouTube動画まで製作してしまった。動画のバッグに流れるのは高知で活躍するシンガーソングライター江口美香 さんに竹虎創業120周年記念で作ってもらった「まっすぐ~虎竹の里~」。竹虎にお電話頂いて保留になった時にもかかる曲で、何とバックコーラスに社員・職人が全員参加したという曲だ(笑)。
そして、今年はNHK朝ドラで大注目されているから、高知なら鰹、坂本龍馬、牧野植物園だろうか。実は、元々高知県に観光に来られた方にオススメする一番の名所は桂浜でも龍河洞でも播磨屋橋、四万十川でもなく自分は牧野植物園をお教えしてきた。都会から来られた方には特に大好評で、散策しているうちにあまりに心地が良いので飛行機の予約を最終便に変更して帰ったよと、喜んでいただいた事もある。
そんな牧野植物園には、虎竹命名の縁があって20数年前に虎竹を移植させて頂いている。ところが、虎竹の里以外では虎模様の付かない不思議な竹は、やはり牧野植物園でも思い通りに育っていない。そこで昨年末に新たに場所を用意いただいて移植させてもらった。
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この時の虎竹移植に密着したYouTube動画があります、よろしければご覧ください。
さて、牧野富太郎博士の生誕160周年を祝って虎斑竹のスペシャル竹炭を使った、博士の虎竹炭クッキーがようやく焼けました。近日発売予定です、こうご期待!
食べた社員の表情で、クッキーの味が分かります。
コロナが収まって沢山の観光の方が南国土佐に戻って来て頂けるようになった。まさに高知だけに戻り鰹のような勢い?だろうか。特にNHKの朝ドラ「らんまん」で注目を集めている牧野植物園などは既に昨年末からお客様が増加傾向だったけれど、遂に先月は月間新記録だったようだ。
さて、そんな高知の玄関口である龍馬空港には、鰹の一本釣りで有名な中土佐町久礼の大正市場にある田中鮮魚店の大将、田中隆博さんの等身大パネルや、顔出しパネルが設置されていてお客様を出迎えている。高知と言えば全国の方々誰に聞いてみても、やはり鰹なのだ。実は自分も小さい頃は、毎日の食事はもちろん何かと言えば鰹だったので「またか...」とあまり好きではなかった。新鮮な魚をタタキにする事はないので、ほとんど生の刺身で頂いていたが、あの分厚い切り身とモチモチ感に若干うんざりした事さえある。今にして思えば恵まれすぎている(笑)。
そして、高知は坂本龍馬である。観光にお越しになられて桂浜の龍馬像をご覧になられない方などいないのではないかと思う。太平洋に向かって建っている姿は何度見ても荘厳だし、もし初めてのファンの方なら感動せずにはいられない。
しかし、何にか忘れてはいないだろうか?鰹と坂本龍馬の国にも、それらに負けない日本に此処だけの虎斑竹 がある。鰹の泳ぐ太平洋の潮風が模様をつけるとの説もある不思議な竹であり、龍馬の時代にも土佐藩山内家に年貢として献上された由緒ある竹、今や全国に知れ渡った世界的植物学者、牧野富太郎博士が命名した竹なのだ。
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竹虎は明治27年の創業で、竹の商いをはじめてから129年となる。こうして長く竹の仕事を続けさせて頂けているのは、いつもご愛顧いただく皆様方のお陰だ、本当に心から感謝したいと思う。創業した大阪天王寺から日本唯一の虎竹成育地である高知県須崎市安和に拠点を移し、製造量の増加と共に株式会社として立ち上げてから今期で第73期を迎える事ができた。今日は、その一日目である。
和傘に使う竹材の取り扱いから竹材商としてスタートし、虎竹 に魅入られた初代から今にいたるまで竹の世界も様々な変遷があり、自分達の会社も大きな時代の波のうねりの中で右往左往を続けている。
長い社歴も変化の連続だったに違いないが、これからは更にスピードを増して全てが変わり続けていくのだろう。目が回りそうなほど早い流れを目の前にする度、ずっと変わらない虎竹を手に取り先人に問う。そんな一年のはじまりだ。
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