埼玉県の比企郡小川町は、古くから和紙の里として栄えた場所である。和紙と竹細工は深い関係があり、竹職人も多くいたため、虎竹の里から遠く離れてはいるが、ボクも何度か訪れたことのある町である。そんな小川町には、「土地の持つ力」があると、江戸蒔絵赤塚派10代の三田村有純先生は語る。
蒔絵といえば漆だが、皆様は漆と聞いて何を思い浮かべるだろうか?多くの方が漆器類や塗りのお箸を想像するかもしれない。竹細工にも漆は使うので多少の事は知っているつもりではいた、しかし、三田村先生の文学講座「日本人の生活と漆」を拝聴させていただき、ボクはまったく異なる面白い世界が広がっていることに驚いた。
漆は単なる塗料ではなく、日本の文化や精神、生活の一部として根付いてきたものである。歴史をさかのぼり、分かりやすく解説いただく三田村先生のお話にのめり込む。そして、その漆を巡る話の中で特に印象的だったのは、ヨーロッパでの漆の木の植樹プロジェクトだった。ヨーロッパには漆の木が自生しておらず、日本のように伝統的な漆工芸を根付かせるには、まず木を植えることから始めなければならない。このプロジェクトは、漆の木を育て、やがて森を作り、人材を育てるという壮大な計画である。
漆の木は成長に時間がかかり、漆液を採取できるようになるまでには約15年の歳月を要する。木の寿命はさらに長く、持続可能な資源として活用するためには、数十年単位の計画が必要である。こうした長い時間軸のなかで、日本の漆文化が新たな土地でどのように育まれていくのかを想像すると、とてもワクワクする。
このプロジェクトを進めることで、漆に対する新たな価値観が生まれ、未来の職人たちに受け継がれていくことが期待される。25年後、この漆の森がどのように成長し、どのような実りをもたらすのか、今から楽しみである。日本の伝統文化は、一見すると過去のもののように思われがちだが、こうした挑戦を通じて未来へとつながっていくのである。
漆の世界には、まだまだ知られざる可能性が広がっていると感じた。ならば、竹も同じではないだろうか?三田村先生に多数の著作もあるようだから、ヒントを見つけるべく一冊づつ紐解くつもりだ。
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