梅干しざるの製作も最盛期に、たまたま訪ねたご夫婦がタイミングよく梅の収穫を楽しまれていた。完熟した梅で作る梅干しも良いが、このような青梅で漬ける梅干しは歯ごたえがあって好きだ。学生の頃、全寮制の中高一貫校だったので食堂で出される食事だけでは足りず梅干しを毎日食べていた。600人が一度に食事できるだけのテーブルが並んでいたが、その中央に梅干しの容器が置かれていて、梅干しだけはどれだけ食べても、通りがかりに摘まんでも良かったので恐らく一生分を食べたのではないか(笑)。
まあ、しかし今回は梅干しのお話しではない、「花より団子」という諺があるけれど「梅より竹ざる」なのだ。梅を入れている古い竹ざるの口巻が気になった。実は竹ざる、竹籠の口巻の方向はほとんどが右巻なのに、この竹ざるの方向が左巻きになっているのだ。
こうして見ると分かりやすいと思う。竹細工に使う竹は材質がしっかりしてくる3年竹を用いるが、口巻には柔らかい若い竹が使いやすい。何周もしながら竹ヒゴを縁に巻き付けて仕上げていく竹の巻き方の方向が反対なのだ。
例えば、この経年変色を知って欲しくて用意していた真竹の手提げ籠を見ていただくと、口巻きが両方とも同じく右方向になっているのがお分かりいただけると思う。
伝承された技を用いて編まれて、又それを伝えていくので昔に作られた古い竹籠などを見ても右巻きは変わらない。ところが、九州のごく一部地域と、東北の篠竹細工には口巻きが反対に左巻に作られた籠がある。九州の竹籠は虎竹と同じ仲間の淡竹(はちく)を使っているから大好きだ、それで左巻きだからその職人の細工はどこで見てもすぐに分かる。
最下段に分かりやすいようにYouTube動画を用意している(16分38秒から口巻のシーンです)。右利きの人が多いので、竹編みも右手を多用するのが自然だから口巻は右巻きとなっているのだ。もちろん職人の中には左利きもいたと思うが、昔は師匠から習った通りに編んでいくから口巻きの方向は同じになる。また、生活道具として修理も多かったから口巻の方向を揃えるように指導される事があったのだろうと推察している。
いつだったか口巻きが反対の竹籠に出会った事がある。真竹が使われている、更にその土地の特徴が色濃く出ている籠だったので驚いた。製作した職人に「あなた、左利きですか?」と尋ねたら、その通りだった。竹細工を志す若者が少なくなった近年である、左利きの作り手なら、その職人が作りやすいようにと師匠が言ってくれたそうだ。
あの方らしいな...。
師匠の方の優しい眼差しを思い出せて今朝は幸せな気分だ。
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