この古い魚籠は高知県下で昔から使われてきたものである。別段特に変わった形の籠ではないけれど、底から立ち上がり部分の幅広の竹ヒゴと胴体部の細かい竹ヒゴの対比が特徴的だ。竹細工は、人の手がかかるため竹虎では沢山の内職さんに助けていただいてきた、そんな方々の中には仕事の合間をぬってテングサを採ってきて自家製トコロテンを作っている方がおられた。そう言えば、あの職人さんは赤茶けたテングサを、このような魚籠にいっぱい入れて帰って来られていたなあと懐かしく思い出す。
軒先に鰻魚籠が吊り提げられている、こちらも高知で愛用されてきた竹編みのひとつだ。ザックリとした四ツ目編みで、大型の魚籠という以外はあまり似た所は見つけられないものの、一番傷みやすい底の四隅を守る力竹にご注目いただきたい。少し分かりづらいかも知れないが、両方とも錆に強い銅線をグルグル巻いて補強されている。
これは美しい魚籠だと思われる方も多いだろう。しかし、これは実際に魚を入れるものではなく魚籠型の花器である。漆で仕上げられた竹肌は、まるで経年変色した竹のような渋く美しい色合いを醸し出す。
土佐魚籠の最後は、20年近く前に出会った魚籠名人の方に虎竹を使って特別に編んでもらった虎竹魚籠をご覧いただきたい。この方も、ご自身が渓流釣りの太公望で自分が気に行った道具を使いたいという事から竹細工をはじめられた。
体に沿うように編んだフォルム、一番目を引くのは銅板のあしらい。丈夫で長く使える道具作りの名人は、イワナだったか、アメゴだったかの飾りを籠の中央に付けてくれた遊び心の人でもあった。こうして考えてみると、高知の雄大な自然は虎竹のような他にはない竹を生み出してくれるけれど、他にはなかなかいないような魅力的な人も沢山生み出してきたのではないかと思う。
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