昭和の竹屋さんと虎竹魚籠

 
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あれは何時だったか?深い渓谷の流れを右手に見ながら、長い下り道をおりた所に小さな竹屋さんがあった。中に入ってみたら様々な竹ざるや竹籠がならんでいる、一目で地元の竹を使った細工だと分かるので興味がわいた。「ごめんください...!」声をかけても静まりかえっている、しかし奥に進むと少し高くなった仕事場があって、ついさっきまで職人がそこに座って竹割りでもしていたかのような温もりさえ感じた。


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一枚の白黒写真が飾られているのが目に付く。昔のこのお店だろうか?引き戸のある入り口には大きなクマデが二本掛けられ、立派な竹箒も見える、梁には腰籠や小さな手付き籠が連なって吊り下げられ、奥の天井には井型に組んだ丸竹に長角の虫籠、左側の古びた柱には六ツ目編みの花籠。そして、四ツ目底の干ざるや大きな盛籠、米研ぎざるなど大小の竹編みが無造作に並ぶ畳敷きの中央に頬被りしたエプロン姿の店番らしき若い女性が写っていた。ハッと目が釘付けになる、こちらを見る優しい眼差しがまるで母を見ているようだったからだ。


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しばらくすると、白髪のご婦人がゆっくりと表れて静かに話しだした。お茶の湯気が差し込んで来た光に揺れている、この仕事場は壁の上側に大きな窓が設えられていて細かい竹の仕事にピッタリなのだ。


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竹屋に嫁いで竹人となる、やはり母と同じだった。幸せな人生だったに違いない、亡くなられたご主人が撮った写真を見れば竹への想いも、妻への気持ちも良く分かる。渓流釣りが盛んな川筋にあって、魚籠作りの名人だったと言うご主人の真竹で編まれた魚籠を一つ頂いた。


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「同じような魚籠があるのに、どうしてですか?」わざわざ虎竹角魚籠を復刻した理由が人には分からないらしい。それは決まっている、あの白黒写真を見たからだ。


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