小さい頃には「煤竹」という竹が何処かに生えているのだと思っていた。ところが、もちろん全国の竹林を歩いても、このような竹を見つける事はできず、それでは一体何所にあるのか?と言えば屋根裏にあるのである。
それも、近所にあるような新しい家ではなく、昔ながらの藁葺屋根のある古い民家の屋根裏なのだ。昔の住宅では毎日の炊飯などに必ず火を使った、もちろん現代の皆様のご自宅でも調理に火は使うのだけれど、ガスや電気ではなく本当の炎を使う。
古民家には囲炉裏が設えられていたので煮炊きにせよ、暖を取るにせよ、燃やした煙が立ち込める。その煙が藁や茅葺き屋根の防虫になると共に、天井に使われている竹が100年、200年と燻されて自然と出来あがるのが煤竹、ボクは「時間職人」などと呼ぶこともあるが、まさに時間が磨き上げた銘竹なのだ。
煤竹を見ると濃淡があるけれど、薄く見える所は縄が巻かれていた所、そこには煙が直接当たらないので色合いが違っている。
現在では囲炉裏の家などほとんどないので煤竹は非常に貴重な素材と言える。煤だらけの真っ黒い竹材を大切に集めて来ても、古い竹材なので使えないものも多々あるが、匠の手業によって生み出された至宝の作品がある。
本物の煤竹が希少になりつつある中、人工的に煤竹をつくる技術も確立されている。母の実家に行くと何故かホッと安らいでいたけれど、後になって囲炉裏の煙の香りのせいだと分かった。赤く火が燃えてユラリと立ち昇る白い煙、パチパチとはじける音、そして部屋中に染み込んだ香り、どうやら本能的にリラックスするようだ。
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