スズ竹や根曲竹といった北の竹材を使うと、非常に趣向性が高く面白い作品が出来あがる。昔の籠には時々使われていて、名人作の品には艶が出てきて良い頃合いになった根曲竹などがある。やはり東北で昔から言われてきたように「真竹より篠竹、篠竹よりスズ竹、スズ竹より根曲竹」なのかも知れない。しかし現在では竹材の入手が困難な事や、そもそも竹の価値を伝えきれない事があってか、このような素材を活かした秀逸な竹編みに出会うことは、かなり少ない。さて、そんな中にあってだ、遂に二年という長い時間をかけて出来あがってきたのがスズ竹で緻密な網代編みされたアタッシュケースだ。
ご存知ない方がおられたら、現在のスズ竹の現状をYouTube動画でご覧いただきたい。短縮版なのですぐに観ていただけるかと思うけれど、120年に一度という開花があった、竹は花が咲くと根で繋がっている竹林は全て枯れてしまうので良質なスズ竹を手に入れることは困難になっている。
そんな貴重な竹材をふんだんに使い製作いただいたアタッシュケースは、ボクが愛用している鞄がモデルとなった。同じ仕様で、そうご依頼いただいてから時間がかかってしまうのは、このような素材の調達の事情もある。出来あがったばかりの竹表皮を注意深く見ると、自分のアタッシュケースと比べて竹ヒゴを平になっているのが分かる。
両方とも基本的には同じ技法で、一本のスズ竹を四ツ割にして丁寧に幅取りした竹ヒゴで編んでいる。実際の炭窯で炭化した自分の鞄と、機械的な炭化窯を使った今回とは方法が異なるので、それぞれの色合いに違いはある。しかし、竹の表情の大きな差異は何かと言えば、実は竹の太さによるものだ。特に近年は太くて良質なスズ竹が手に入りづらく細い竹ばかりだが、それが返って今回の緻密な編み込みに活かされている。
女性の方がお持ちになられるので小振りな形に仕上げていて、竹の表情が自分の物と比べてもエレガントな印象だ。竹自体の自己主張が出過ぎていないけれど、キラリ光る所とメリハリが加えられている。細く繊細な竹材の多い現状を逆手にとった作り手の勝利とも言える。
持ち手には竹の中で最強である根曲竹を使う、元に設えた細工も根曲竹、籐でしっかり巻き込まれている。ほぼ、完璧に思えるが、後は革職人が設える内張だ。
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