三段に編まれた竹ピクニックバスケットの中でもこの丸型の白竹三段弁当箱は、かなり異彩を放っている。まず、丸型というのは他にはないし、本体や蓋部分、三段になった底部分など網代編みで仕上げられているのもこの弁当箱ならではだ。一番最初に目を引いたのは最下段の四ツ目編だった、二段目、三段目に比べて高さがあって通気性もよいから果物やデザート入れにはピッタリだと思って作った職人の思いが伝わってきた。
この職人は師匠について学んだのは確か一年くらいで、後は元々のセンスと努力で竹細工に向き合ってきた。それこそ、この腕前になるのには並大抵の事ではなかったろうと思う、苦労の末に暫くして大手電機メーカーの照明器具を製作するようになったのが転機となる。電気メーカーと聞いて竹の仕事とは結び付かないと思われるかも知れないが、昭和のご家庭で使われていた照明機器の多くは竹だった。上から吊るすペンダントライトの笠、スタンドライトのカバーなど、自分が小学校の時に祖父の建てた自宅は一つ残らず竹で今もそのままな物もある。
照明の仕事をされていた時は毎年変わるデザイン、全国から舞い込む注文のため職人や内職も何人もいた忙しい時代だったと言う。今では竹照明の仕事の名残は、職人自ら取り付けた工房玄関の古い竹編み灯りだけだが、その後続けてきた三段弁当箱作りも遂に最後となってしまった。託された最初に試作した一個は、持ち手部分が弱い火でゆっくり手曲した緩やかなカーブになっていて、手間のかかるこの技法で作らた丸型弁当箱はこれしかない。手元で眺めながら少し寂しさも感じている。
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