顔では笑っているが内心穏やかではない。篠竹魚籠に入れられている黒いラインが気に入らない、本当は松の葉や根っこを使って色付けせねばならないのに、これは何で塗られているのだろうか。初めて聞いた時には、竹に松と組み合わせるなど縁起も良いし面白いと思っていた。そもそも元を辿っていけば神事的な要素があったに違いないのだけど、今となっては誰も知る人がおらず伝統の技も消えてしまっている。
この黒いラインは何なのか?ただのデザインか?本体に入っているだけではない、底に入れられていたり、口巻の一部にあったりする。とても魅力的だ、だから知りたい。松葉ではなく古タイヤを燃やして色付けしていたと言う職人をはじめ誰も知らない。ただ父親がやっていた、祖父から教わったと話すだけである。1970年代とは少し古いが、その頃まではカマドの釜底に付着した煤を使って竹ヒゴを染めていた職人もおられたようだ。しかし、その方も黒い竹ヒゴについては何も語ってくれてはいない。
篠竹魚籠は竹表皮を裏返した形で編まれている。地元の人もうっかり見過ごしているようだが、滑らかな竹表皮が内側にくる事によって魚が傷まないようにと、作り手の心使いが伝わる大切な部分だ。
内心穏やかでないと言ったが、実は安堵もしている。理由が分からずとも、それでも何とか今日まで竹細工の文化が繋がってきているからだ。本来の作りではないにせよ、昔ながらの形がここにある。竹ひごの色付けには、さすがにそぐわないと思う手法もあるけれど、それでも全く失われてしまう事に比べれば何という事はない。
コメントする