悲しき根曲竹手付き籠

 
ミニ根曲竹手付き籠


先日、少し残念な竹細工を手に取った。根曲竹で編まれた幅が23センチほどの小さな手付籠、卓上に置いて小物入れとして使ったりオトシを入れて花籠として飾るにも手頃な大きさでお楽しみいただけそうである。


根曲竹手付き籠、リンゴ籠


デザインの元になっているのは根曲竹の丈夫さ堅牢さから長い間、リンゴ農家さんでも活躍してきたので「リンゴ籠」とも呼ばれている買い物籠だ。幅は約38センチ奧行き26センチ、高さは19センチあるのでちょっとしたショッピングには重宝する。


根曲竹手付き籠、竹虎四代目(山岸義浩)


竹虎では30年以上も前から定番として常に店頭に並んでいた竹籠のひとつ、持ち手に丸竹をそのまま使っているのが秀逸で手触りも良く、籠の軽やかさを感じる事ができる。


ミニ根曲竹手付き籠、竹虎四代目(山岸義浩)


ところが、このリンゴ籠をそのまま小さくしたミニ根曲竹手付き籠には、どうにも許しがたい所がある。根曲竹の代名詞のように編まれたきた伝統の籠を元にしているだけに余計に気になってしまう。


ミニ根曲竹グルーガン


ミニ根曲竹買い物籠接着


見栄えだけを真似て製作したためか底の力竹をグルーガンで接着してしまっているのだ。グルーガンはホットボンドガン等とも言って熱で溶かした接着剤をピンポイントで使用できるので今や色々な細工に多用されている。


ミニ根曲竹手提げ底


本来は竹の特性である弾力やしなりを利用して荷重に耐えられるように入れている力竹を、飾りのように接着剤で留めているのを竹を知らない方が見たら何と思うだろう?この竹籠が販売されていたのは安価なものを売るお土産物屋さんではない、美術的な価値も高い伝統の竹細工などを展示している博物館に置かれていた。


このような場所で手にとる竹細工にしては、この根曲竹手付き籠は悲しすぎる。竹の良さや素晴らしさを知って欲しいと願っている自分たちにしたら、若い皆様や海外からの方が日本の手仕事を誤解してしまわないかと心配になる。実は、このような事は竹の展示会ではたまに見かける事があって、見事に美しくガラスケースに陳列されている作品の竹素材が全くデタラメだったりする。


根曲竹


竹には種類によって特性があり、その竹材が使われているからこその形だったり編み方なのだが展示する側が竹素材の事まで気にかけていないのかも知れない。しかし、そんな薄っぺらい見せ方では、どれだけ高名な作家の籠だろうが次の世代に響かないのではないか。




根曲竹をどうやって伐採しているかご存じだろうか?それぞれに違いがあり魅力ある竹を、竹林から伐採されて職人の手仕事を経て経て皆様のお手元に届くまでを正しく知ってもらいたいと、いつも思う。


真竹ミニ米研ぎざる


今度のミニ根曲竹手付き籠、小さくした飾りだから手を抜いていると言うのなら更にたちが悪い。本物の職人の編む竹は小さくするほど技が光るものだ。それなりの場所で展示販売される竹細工は職人の真偽をしっかり見極める事も必要だと痛感する。


根曲竹経年変色


正しい日本の竹細工なら、自分が義理の母から譲られた根曲竹手提げ籠のように、何十年と時を重ねるほどに美しく、愛着が増し、楽しい思い出と共にいつもそばから離れない。


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