F竹材店が廃業すると聞いたのは何時の事だったろうか?幼い頃からずっと名前を耳にしていた日本の竹業界のビッグネームであり、竹虎にとっては一番のお得意先だった。どんなに海外からの輸入竹製品が増えても、どんなに不況であってもF竹材店さんは変わることなく竹虎の製品を引き受けてくれていた。さすが日本一の会社様は違うなあと、入社直後もしきりに感心ばかりしていた。
ところが、ある日突然の重たく暗い知らせ。あのFさんが辞めてしまうような竹産業に未来はあるのか?それより、年商の多くを頼り切っていた竹虎はこのまま倒産だろうか?それからずっと虎竹の明日を思ってきた。
声が大きく豪快な笑顔が印象的だったFさんに初めて会ったのは子供の頃なのにハッキリと覚えている。年に一度か二度は遠い所を遥々と虎竹の里にまでやって来ていた。当時、Fさんは来社されるたび自分達の家に宿泊した、祖母も母もおばさんも、まるで旅館の仲居さんのように忙しく働いていたように思う。山岸家の食器棚に竹製の珍しい盛器があふれているのは、このせいなのだ。
二階の客間では大きなテーブルに様々な料理を並べた前で浴衣姿のFさんと祖父が団扇片手に談笑していた。そういえば当時はエアコンなど無い時代だったが網戸を開けるだけで涼しい風が入ってきた。
こうしてFさんが当家に泊まるのは、虎竹の里に旅館やホテルが無かったからだとずっと思っていたが実は全国各地に出張に行く度にそれぞれの地域の取引先で宿泊するのが常だったようだ。それを先日、長年に渡って竹屋を切り盛りしてきた女将さんから聞いた。女将さんも自分の祖母や母のようにFさんが来る度に接待に忙しかったと言う。何日も宿泊して、そのお宅を拠点に更に地方に出かけて行かれていたと聞くので幼った自分のエネルギッシュなFさんの印象は当たっていたようだ。
それにしても、こんな遠くの街でF竹材店さんの事を思いがけず聞けるなんて感激だ。天国の祖母が、女将の口を借りて話してくれているに違いないと思う。やはりボクは幸せ者、竹の神様に好かれている。
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