当社とは祖父の代より親しくお付き合い頂いている渡辺竹清作の線磨き四ツ目文庫がやって来た。十数年前に出会ってから、ずっと憧れの眼差しで遠くから眺めているだけだった逸品だ。どうしても忘れがたく、懐かしく感じるのは幼い頃に訪れて一度拝見しているのかも知れない。
最大の特徴は6分(約1.8センチ)幅に取った平ヒゴに描かれる線模様。何だこれは?見れば見るほど魅かれてしまう、もう虜になっていた。
少し離れてみるとこんな感じ、渡辺一門ならではと言われる独特の美しさ。この特殊な線磨きは1メートル切りした竹材を柱にあてがい一発勝負の中で全神経を集中させる技。創作の際の一瞬たりとも気が抜けない緊張感が静かに伝わってくる。
そおっと上蓋を開けてみる、想像より驚くほど軽やか。
編み上げてから染める、そして、いし粉をつけて磨き研ぎ出してから漆を塗っている。そろばんを滑りやすくする時にも用いるイボタをホコリ入れに使う、イボタを落とすと立体感が際立つのである。
なるほど、このツヤツヤした滑らかな手触りはイボタか...。竹の細かい繊維までこうして表現されている作品は他にない。
渡辺竹清先生の作家人生でも4~5個しか創作できていない逸品と言うには理由がある、やはり素材だった。大分は全国に名だたる真竹の生産地だが、その中で国東半島の竹は有名である。先生自らが出向いて杉の木立の中に入って竹を探したそうだ。実は、雑木の中に生える竹は早く日光を浴びたいと伸びが良く良質な竹材が育つのだ。しかも若竹でないと線磨きの技法はできないのだからやっかいである。若過ぎてもいけない、1年半の年齢で陽に当たっていない柔らかい竹質の直径で9センチ、節間は45センチ近くある真竹を厳選したそうだ。
渡辺先生曰く「竹との出会いで出来る技」なのである。
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