この根付の孟宗竹の何と立派なことか、京都の清水銘竹店さんにお伺いすると威風堂々たる風格で出迎えてくれる竹達です。竹林にある美しい姿をそのままに掘り出し、運び出し製竹するには大変な労力と技術が必要なのですが一般的にはあまり目にする機会の少ない根付の竹を見る度に思い出す光景があります。
それが今から50年前の昭和45年に開店したばかりの竹虎本店なのです。高知県西部の清流四万十川が全国的に知られるようになる少し前だったように思いますが、当時四国一長いと言われた焼坂トンネル開通で交通量の増加しだす国道56号線沿いに竹虎としては初の展示場としてオープンした店舗の正面屋根には、この根付の孟宗竹が一文字に飾られていました。
真新しいアスファルトの道路の向こうから、沢山の社員さんや地元の方々と共に見上げた空の色まで今でもハッキリと覚えています。
さて、ゴマ竹という竹があます。名前の通り、まるでゴマのようなブツブツが出来る面白い竹で、アピオスポラ・シライアナ(Apiospora shiraiana)あるいはアピオスポレラ・バンブサエ(Apiosporella bambusae)と呼ばれる糸状菌によってゴマが出るのだそうです。このような難しい菌の名前は知りませんでしたが、小学校の頃など竹林で遊んでいると立枯れした竹にゴマが出ていたり、長く放置されている竹材にも同じようなゴマで出ているのを見て育ちましたので身近な存在の竹でした。
自分の見ていたゴマは自然に発生したもの、ところがゴマは人工的に作って銘竹として仕立てられている事を後になって知ります。今ではあまり使われていない竹虎のバックヤードの柱には図面角竹のゴマ竹が使われていました。角竹というのは筍の時に四角い木型をはめて成長させて四角い形にします。そしてゴマ竹にするには成長した竹の枝をすべて打ち払い立ち枯れ状態にします、そうすると竹に菌がついてゴマ状の竹になっていくのです。自然界の力に人が手を添える形ですので、どのようなゴマになるかは職人にも分かりません。
バックヤードの柱に使われている竹を良くご覧いただきますと煤けているのがお分かりいただけます。実はこれは自分が大学4回生の時に起こった大火災の名残なのです。一晩中燃え続けて竹虎は工場も事務所も本店も商品を満載した大型トラックも全てが無くなりました。遠くまで見渡せる、一面焼け野原となって何とも言えない無力感でした。
しかし、自分は火事の第一発見者となったからこそ竹虎に入社して今があります。現在、あの時とは比べようもない程の変化に今後どうなっていくのかも分かりませんが、いつかは「あの事があったから今がある」と思える日が必ず来ると強く信じています。
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