もう5年程前の事になりますが竹細工の名人だった故・廣島一夫さんの竹籠や竹ざるを拝見する機会がありました。色々な籠の中で特に気になったのが、シタミと呼ばれる鮎を入れるための魚籠だったのです。ご本人は「竹細工は道具」だと常々お話しされていたようです、一度お会いさせてもらった時の静かなまなざしを思い出します。
あの自然体、気負いの無さから生み出された竹は、言葉通り作り手と使い手の長い共同作業で進化するものでもありました。しかし、それにしても飾っておきたくなるような惚れ惚れするフォルムにただ魅入るだけでした。
いつもお話しさせていただくように竹はイネ科であり、世界一美味しいお米の育つ日本の竹は最高の素材です。そして大陸より渡ってきた竹の技は、その秀逸な素材と日本人の美意識によって昇華されて来たのだと思います。
大阪にある国立民族学博物館にはネパールで使われていた魚籠が展示されています。驚くのは鹿児島の職人さんが父親から作り方を習ったという細くなった口、特徴的な碇肩の魚籠(腰テゴ)と瓜二つだった事です。
廣島さんの鮎籠は、遠く海を渡って伝わって来たであろう魚籠の形を取り入れながら毎日の仕事で磨かれ、洗練されてアートの領域にまで高められているかのようです。
あの魚籠が欲しくて、ずっと近くで廣島さんに師事されていた職人さんに製作をお願いしたのは2014年の事だったのか...。数年を経て手元に届いたシタミは、まだ若く青々としていますがそのうち落ち着いた色合いに変わっていくのです。
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