「地震の時は竹林に逃げろ」竹は昔から竹であり、現在も竹である。

雨の虎竹の里、竹林


先日の大雨で、改めて自然の力の偉大さ災害の恐ろしさを思い知らされています。土砂崩れの起こる前、起こっている最中に現場におられた方々が話される「強烈な土のニオイ」と言うのが印象的でした。ニオイと記憶というのは密接に繋がっていて、長時間経っても薄れることがないと聞いたことがあります。自分なども強い潮の香りは台風と結びついてあまり良い感じを受けませんが、斜面の多い虎竹の里も「土のニオイ」には要注意だと思っています。


孟宗竹


前にもお話しさせていただきまたように、竹が里山に植えられたのは生活の道具として役立てるための目的が大きくある一方、食料として、防災林として人の暮らしと命を支える役割をずっと担ってきました。孟宗竹などまるで日本在来種のように全国津々浦々に生えていますが江戸時代に大陸から渡ってきたものがその太さと長さから珍重され広まったものです。武家のステータスになっていた時代もあり、その当時の庭には競って移植されたそうです。また、現在のように食料事情が良くない時代には、あの大きな筍などは多くの人命を飢えから救ったのではないかと思っています。


竹は、竹細工だけでなく、衣食住すべてに関わり、日本人の暮らしと共にあったのですが特に防災というのも大きな竹の役割でした。株立ちの蓬莱竹は高知ではシンニョウチクとも言われますが台風の雨風の強い土地柄ですので日頃は何といこ事もなく眺めている竹が、泥の洪水が荒れ狂うように流れる川の護岸をしっかり支えてくれる姿には頼もしさを感じた事だと思います。




蓬莱竹は南方系で温かな地域を好みます、高知県の西部の川辺にはこのような光景が広がりますし九州などにも広く分布し同じように護岸用として役立っています。ちなみに良質の竹材のとれる山口では孝行竹ともいいます、親竹から新しく生えた子供の竹が離れないのです。この力が土壌をしっかりホールドする防災力ともなっています。


吉野川の真竹


日本三大暴れ川といわれる四国三郎をご存じでしょうか?言わずと知れた吉野川です。高知県を源流として徳島県を縦断する一級河川ですが、この川沿いにも見事な真竹の竹林が続きます。幼い頃、あまりに川岸に竹が多いので竹は水が好きなのだとずっと思っていましたが、そうではありません。水害から尊い命や財産を守りたいという地域の人々が竹の地下茎で繋がる強さを知り、代々に渡り管理してきたものです。


篠崎ざる


東京にもかっては竹籠の一大竹産地がありました。現在は「篠崎」という地名にその名残があるだけですが、籠を編む竹材は江戸川の護岸用に植えられた篠竹を使ったものでした。最後に残った篠竹ざる職人、草薙さんにお話しを伺った事がありますが当時は200軒の竹細工職人さんがいて編まれた竹籠は船に満載に積まれて江戸川を運ばれて行ったといいます。江戸川に植えられた護岸用の竹材の量も分かるというものです。


このような例を挙げていきますと枚挙にいとまがありませんが、洪水だけではありません、台風銀座の高知には竹の生垣で防風対策をしているお家は結構見かけます。竹の生垣は先祖が植えて大切に守ってきたものですから100年、100数十年というものもあり、そのお宅の自慢ともなっています。


竹根


「地震の時は竹林に逃げろ」祖母から母から地域の古老からそう言われて育ちました。遊び場であった竹林で竹根が伸びているのを見つけ折ろうとしましたが、しなって強くて全く歯がたちません。仲間と掘ってみると、なるほどその強靭な根が張り巡らされ驚いた記憶があります。もちろん、手堀りでは深く掘るとなどできません。竹の仕事に就いてからは重機を使って竹林を掘り返した現場や写真も多数見てきましたが、本当に凄いです、あの根が幾重にも張り巡らされていれば少々の揺れや水にはビクともしないだろうと確信しています。


自分は昔話や言い伝えには何らかの真理が隠されてるいると思っています。そこには長い先人の経験や知恵が秘められていると考えているからです。科学も何も発達していない昔から、「霜が降りると虎の色がつく」虎竹の里の老人たちが言い伝えのように話していた事も温暖化が顕著になった今、本当の事だったと分かりました。来月、世界竹会議メキシコで登壇させていただき世界各国の竹専門家の皆様にお話しする内容はまさにこの事なのです。


荒廃した竹林


竹林が危険と言わたれり、放置竹林、竹害などと書かれているのを見ると、かなり違和感を覚えています。人間の役に立つから植えられたものが、安価な筍や竹製品が海外から入ってきて必要がなくなり、管理できなくなったら、まるで悪者のように言われています。しかし、竹は昔から竹であり、現在も竹であり続けているだけです。日本は国土の約7割り近くを森林が占める森林大国です。特に自分たちの暮らす高知県などは更に日本一の森林県なので県土の84%が森林です。そんな自然豊かな日本にあって竹林の占める割合はどれくらいかと言うと実はわずか0.6%しかありません。それなのに放置竹林などと言われるのは多くの竹林が身近にあるからで、それが前にもでましたがどれほど日本人の暮らしに役立ってきたかという事の証明だと思っています。


蓬莱竹、シンニョウチク


高知の高速道路は山の中を突っ切って走ります。なので山の中腹にポツリと株立ちの蓬莱竹が植えられている所があります。それらは山の所有者の目印で、山の境界線となっています。これなども自然災害に強い竹だからこその使われ方のひとつです。竹林が危険というならば、それは管理を放棄した竹林が密集して生えすぎて根が弱り、竹の勢いも衰えてしまった竹林の事ではないでしょうか。竹林と竹藪は、同じように思われる事が多いですが、実は全く違うのです。




※人と環境にやさしい驚くべき成長力の竹材有効活用を「バンブーロス解消へ、驚異の除湿力の竹炭活用」として2022年5月21日の30年ブログにも掲載しています。驚異の竹炭の除湿効果の動画も併せてご覧ください。




コメント(8)

はや 返信

竹害をラジオで初めて聞いてネットで調べていたらここも読みましたとても参考になります

竹虎四代目からはやへの返信 返信

コメントありがとうございます。大雨のニュースで竹が流されてるのを見ましたが、やはり手入れされていない竹藪は根が浅くなり防災竹としての機能が保てないのだと思います。

栗田 由起子 返信

竹害についての記事、とても参考になりました。竹が全国で0.6パーセントしかないなんて知りませんでした。今まで日本人は竹にお世話になってきたのに、害とつけるなんて人間の身勝手だなと感じました。ありがとうございました。

竹虎四代目から栗田 由起子への返信 返信

ブログが参考になったようで良かったです。竹林面積は、皆様が思っているより実はずっと少ないという事だけでも、多くの方に知ってもらえると嬉しいです。ありがとうございます。

ハマダ 返信

竹林が防災のため身近なところに植えられたのは昔からの防災の知恵によるものというお話とても沁みます。ありがとうございます。
佐渡が実家で家のすぐ裏が山の斜面となっており竹林です。毎年手入れをしないと大変なのですが防災のためと思うと手を付けないですね。大切にしないと。
ただ、手入れのための人手も少なくなってるのも事実。
過疎地の竹林をどう維持するか、改めて悩ましく思いました。

竹虎四代目です。からハマダへの返信 返信

コメントありがとうございます。
高齢化、過疎が進む地方での竹林管理は今後の大きな課題です。竹林は一度手入れをしておいても、申されるように毎年手入れをした方が管理がしやすいです、頻繁に行く事ができれば筍の時に対処するのが一番簡単です。佐渡の竹は寒さに鍛えられて品質が良いと聞いていますので、何かに利用される事を願ってもいます。

メイコ 返信

貴重なお話に感謝します。
私は車で日本中を回るのですが、2020年の春、日本の竹の勢いが増していると高速道路を走っていて何度も相方に話した記憶があります。自粛で手が行き届かない?いや、違う!と私は感じました。
地球も周波数があり、それは変わります。植物も虫も人間も波動があります。
私は地球の波動と植物も連携しているのではないのか?と思ってます。それはそうと、何故日本でメンマが作られないのだろう?と思ってましたが、メンマの素材の竹は日本にはないのでしょうか?手間暇が掛かるメンマ作りですが、日本の飢餓を救ったとなれば、そこに竹の更なる可能性を感じます。

竹虎四代目からメイコへの返信 返信

メイコ様、コメントありがとうございます。
竹林の拡大は、竹の生命力の強さゆえなのですが、そのお陰で今まで人はどれだけ助けられてきたか分かりません。日本のメンマについてですが、近年国内でのメンマ生産に注目される方々がおられて、全国で何カ所かそのような動きがあります。また、メンマだけでなく筍の新しい商品開発も少しづつ進んでいるようで嬉しく思っています。

コメントする