祖父の声を聞いて、名人の編む孟宗竹の網代編み竹ざる

孟宗竹の網代編み竹ざる


名人の技にはいつも驚かされてばかりですが、この網代編み竹ざるも数ある籠やザルの中でも一際輝いて見えていました。農家の収穫物を干すのに使われる竹製品です、綺麗なモノを編もうと思って出来たものではなくひとつ、ひとつ丁寧に、強く、使い勝手の良いものを編んだ結果、このような美しいザルになったのです。


網代編み竹ざる


更に驚くことは、この竹ざるが孟宗竹で編まれている事です。普通このような竹素材そのままを活かして編み上げる青物竹細工と呼ばれる竹細工は、編みやすく粘り、しなりもある真竹が使われる事が一般的です。昔ながらの職人さんの中に、ほんの少しだけ淡竹(はちく)を使う職人さんもおられますが、かなりレアなケースで例外的と言ってもよいほど。


ところが、すべて孟宗竹だけで編まれた竹ざるとなりますと、見たことも、聞いたこともないのではないかと思うのです。孟宗竹は厚みがあり硬いので、割る時には少し大変ではあるものの、ヒゴにしてしまうと編むのが楽で扱いやすいとこの匠は言います。主に使うのは自分が竹林に入って伐り出してくる5~6年竹、それより遅くなると硬い孟宗は反対に柔らかくなってきて使えなくなるそうです。


孟宗竹の網代編み竹ざる


キャリアは数十年の職人さんですが、実はずっと昔から孟宗竹を使っていたわけではありません。虎竹の里に生えている虎竹も淡竹の仲間ですが、元々近くの竹林に良質の真竹は少なく淡竹での竹編みが昔から続いてきていました。ところが、ある時に太い淡竹がなくなった事があり、その時に祖父の言葉を思い出したそうです。


「高額なカイコ籠はすべて孟宗竹だった」


カイコ籠とは、竹虎でも製造させて頂いておりますエビラの事です。カイコが飼われなくなり、一時はほとんど無くなってしまっていたカイコ籠を野菜干しなどに使ってもらいたいと思って復活させてきました。エビラに使われる竹編みは全て孟宗竹を使っています、これは節の高さが低く好まれる事もありますが一番の理由は丈夫さを優先させる伝統の職人魂です。名人は祖父の声に従い、コレクションしておきたくなるような華麗な孟宗竹の竹ざるを編み続けています。


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