懐かしい画像を久しぶりに見ることになったがです。自分が学生の頃からずっと竹虎本店の前に設置されていたコカ・コーラの自動販売機ながです。観光バスが一日に何台もやって来るような時代、コンビニなど当然ありませんしお客様のご要望もあって店の前には多い時で3~4台の自動販売機が並んでいました。最後に残った自動販売機を撤去したのは、もう随分と前の事ですけんど、この場所には、ちっくと懐かしい思い出があるがです。
竹虎で販売させていただいて、お陰様でファンの方もおられる商品のひとつに竹皮スリッパがあります。竹皮とは筍の皮の事で、筍が成長して伸びる時に剥がれ落ちる竹皮を使いますぜよ。筍は一日に1メートル以上も成長する神秘的とも思えるパワーを発揮しますが、日本で流通している竹皮は輸入のものが大半で、そのほとんどが使われる事なく竹林で朽ちています。これは、まっこと惜しい事。国産の竹皮が有効活用されているのは、ごく一部の食品包材用の竹皮を除けば、この竹皮草履や竹皮スリッパだけではないかと思うがです。
竹皮スリッパには外履き用のEVAスポンジ底を貼りつけます。大きめにカットしたスポンジ部分を接着させてから粗切りしてグラインダーで削りだすのは全て手加工ぜよ。これは竹皮編みの部分を型押しせず、すべて職人の手業だけで形を整えているため、一足一足、左右であっても形が全て微妙の異なるため美しい仕上げのためには、それぞれ手で削るしかないのです。この行程は、とてもホコリがでる作業でした。
今でこそホコリを吸い込む吸引の機械もありますけんど、当時はどうなるか分からない物のためにそのような機械を導入する事はできませんし、工場の電気を使う事すら、はばかられる雰囲気でした。それだけ会社の業績は悪かったがです、そして全く自分の責任ではありますが自分自身が竹虎で全く認められておらず役にも立っていなかったがです。そこで、そんなダメな自分が新しい製品作りのために選んだ場所が、この自動販売機の前やったのです。
虎竹の里は夜ともなれば、真っ暗闇ぞね。時々車のヘッドライトが光る程度の国道脇にポツリと電気のついた前にグラインダーを運び、昼間に合間を見て作っておいた試作の竹皮スリッパを削りよったのです。まっこと(本当に)人が見たら頭がおかしくなったろうか?と思うたかも知れませんにゃあ(笑)道行く人が「ギョッ」とした表情を一瞬見せ、呆れ顔で去っていきます。
けんど、いつも心にあったのは貧乏で休む事なく働かねばならず、元日の朝から竹を切り続けた祖父の話。馬鹿にされながらも諦めなかった竹虎二代目。自分達が何不自由なく生活できて学校に通い、これだけ大きくしてもろうた竹虎を礎を築いた。そんな祖父と自分を重ねて、むしろ誇らしい思いでした。
毎朝、朝礼ではお客様の声を全員で読み上げよりますぞね。竹皮スリッパへのお客様の嬉しいお声を聞くと、あの時の事が無駄ではなかったと格別な思いがあります。けんど、考えたらあんな事は終わったワケではなく、ずっと続きよります。一体何の役にたつのか?馬鹿ではないのか?相手にされなかったり、笑われたり...実は今でも自分は、あのポツリと灯りの灯った自動販売機の前にいる居るのです。
けんど、諦めるつもりは、全く無いぜよ。
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