自分の小さい頃には母屋と別棟になった倉庫の二階には小部屋があって見習いの職人さんがおられましたぞね。思えば、国道が整備され、家族がそれぞれ一台の車を持つような今の時代は少々遠くからでも通勤できますけんどその昔、交通不便な虎竹の里には働きにくるのにも一苦労やった、学校出たてで遠くから働きに来られる方々が下宿のような形になるのは当然の事やったがです。
そんな徒弟制度のような仕事のやり方は、竹の世界でも無くなって久しいのですが、もしかしたら料理の世界では、少なくなったとは言えまだまだあるのかも知れませんにゃあ。少なくとも職人の厳しい世界ですので普通の仕事では想像もできない苦労があろうかと思います。
フランスはパリのレストランA.T、田中淳(Atsushi Tanaka)さんは、わずか15歳の頃にあの有名な料理人ピエール・ガニェール氏に感銘を受けて料理の世界に飛び込んだと言います。日本で修行されるだけでも大変だったと思うのですが、その後ベルギーやフランスで経験を積まれて、こちらの店を開店されちゅうがです。
言葉使いや物腰は柔らかいのですが、自分を決して曲げる事のない熟練の竹職人と同じニオイを持つ田中淳さんとは、昨年はじめてお会いさせていただきました。フランス料理と竹炭という、今までなら少し結びつきにくい取り合わせに挑戦されちゅうのですが、ただ注目されている素材だからという事ではなくご自身の料理の色合いへのこだわりから辿り付いた竹炭(Bamboo charcoal)でした。
だから、せっかく日本人シェフが使うのであれば世界から「竹の国」と認識されている日本の竹、世界一の品質の日本の竹を、最高レベルの技で焼き上げた竹炭を使うてもらいたいと思うたのです。
けんど、面白いものですちや。あの真っ黒い竹炭がこうして美しい一皿となってパリジャンの目と舌を楽しませよります。田中淳シェフはグレーという色合いが好きなのかも知れません、この色合いを出すのに竹炭を使うたと言われちょりましたが最後にもの凄く印象的なデセールの「HINOKI」。
「HINOKI」と言うのは日本ではお馴染みのヒノキ。ヒノキ風呂であるとか、ヒノキ枕、キッチンではヒノキのまな板、あるいは建材としても多用される木材であり、あの特有の香りは自分達にとっては大好きな心落ち着く故郷の香りでもあります。
ところが、このデセールはヒノキの香り、料理にヒノキの香りとは本当に驚きます。さらにお皿に描かれた模様は一体何ですろうか?昨年、竹炭スイーツを創作されるパティシエのLaurent Favre-Motさん達と一緒に来店させてもらった時にも拝見しましたし、その後画像で何度か見る機会もあって、その都度思いよりましたが何と、これが樹木の根を表現しちゅうそうなのです。
ヒノキ、竹炭...この一皿に日本の山々の自然を盛りつけたような格好になっちゅう、まっこと田中さんの圧巻の創造力を感じましたぞね。
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