この虎竹の里は、まっこと美しい所ぜよ。山に囲まれちょりますので山深い所という印象を持たれる方もいるのですが、実は海が近く昨日の夕方に放映されたNHKさんのテレビ番組の特集でも早朝の海からスタートしたがです。
高知県の西の端にある宿毛(すくも)には、だるま夕日というのがあって結構有名ではありますが、だるま朝日というのは知る人ぞ知る早起きする人だけへのご褒美みたいなものですかにゃあ。まっこと、早起きは三文の得というのは本当の事のようですぞね。
そうやって始まった番組ですけんど何故海からスタートするかと言うたら番組タイトルに「潮風が育む幻の竹」となっちょります。実は何を隠そう日本唯一の虎竹は、どうしてこのような虎模様ができるのか研究者の間でも解明されていない謎なのですが、ひとつ海風の塩分が原因の一つではないかと昔から言われちゅうのです。
実は、これには科学的な根拠がある事が最近分かってきちょります。いつだったか塩分と植物の関係のお話を聞いた事がありましたが、植物によっては色が黒く変色するものがあるそうですから、もしかしたら虎竹もそのような作用のひとつが虎模様として現れているのかも知れません。
黒竹という、名前の通り真っ黒い竹があります。直径でいうと1~2センチ程度の細い竹で、竹虎では縁台の座面に多用している竹ぜよ。虎竹の里からもすぐ近くの久礼あたりから生育地が広がりますが、良質の竹の育つ地域は海岸に沿っています。確かに塩分と竹の色づきとは何らかの関係がありそうに思うのです。
「ここには日本で、ここにしかない竹が出る...」番組の中で竹虎工場長がそう話します。海風の作用だけなら海に囲まれた日本です、他の地域にもあるのでは?そんな事も思いますけんど、もう数十年前になりますが、この地に来られたご高名な京都大学の竹博士は虎竹の色合いを土中の特殊な細菌の作用だと話されたがです。
海風と土中の細菌か...?
いやいや、それだけではないだろうと話すのは土佐藩の時代から代々、虎竹を扱ってきた土地の古老達。不思議な虎模様の理由は海からの風、土中の細菌、日当たり、そして一番の決めては気温だと言うがぜよ。「霜が降りるくらい寒い日が続かないと虎が出ない」昔から土地に言い伝えられる事で科学的な根拠などあるわけではないのですが、様々な要素が複雑に絡み合うて生まれる土佐虎斑竹が、この地だけの恵みというのは間違いない事ながぞね。
レポーターの方が思わず声を上げるような急な斜面を、ずっと登った竹林での山仕事を慣れた手つきでこなしている山の職人さん。何気にされているように見える仕事ひとつひとつにも熟練の仕事師の技があるのです。竹虎を退職された後に内職さんとして自宅で竹の矯め直しの仕事や、地元ならではの虎竹を使うた細かい竹細工をされる職人さん。ここには独特の竹を中心に今も昔ながらの竹文化が静かに息づく里であるのです。
わずか1.5キロの間口に深く入り込んだ谷間の山々に育つ、不思議な虎模様をつけて天を目指して真っ直ぐに伸びている竹達が映ります。今度のNHKさんのテレビ取材では、日頃は一人で黙々と仕事をする事の多い職人たちが、自分たちの竹の向こう側を感じてもらえる良い機会になったと思うちょります。竹を扱う時とは、まるで別人のような辿々しさも時には大切な事かも知れませんぞね。
この小さな里の虎模様の入る特産の竹。今回はNHKさんにお越しいただいちょりましたが、かっては遠くイギリスのBBC放送さえ来たような地域の伝統でもあり、誇りでもある竹。ところが、そんな灯火でさえ、ほんの少し前には消えそうになっちょりました。転機は何やったろうか?ほんのちょっとした気づき、何も新しい事ではなく自分たちの足元にあった、そのまま価値を「価値」として思いなおした事ですろうか。もちろん、今でも前途多難、大きな課題は目の前に立ちふさがります。
「我身自らたいまつとなりて世界を照らすなり」
中学の頃に恩師より習った言葉です。田舎の小さな竹屋の自分には世界は広すぎると思いよりましたが、この世界は自分で言うなら、ここから見える虎竹の里。地域の人の笑顔や虎竹のために自分が出来る事を今やる。それが運命であり、喜びであり、今ここにいるただ一つの理由ぜよ。百年前に初代宇三郎が小舟で辿り着いた浜辺を見下ろす峠で思いを新たにするがです。