その竹屋さんには偶然手にした一冊の本が導いてくれたがです。はじめてお伺いする会社様の広々とした敷地には大きな竹の山があり、竹を立てかける鉄骨、大きな湯抜き釜、張られたロープに干されたウエス...。眺めていると懐かしい故郷に帰ってきたような気持ちになってくるがぞね。古く天井の高い木造倉庫の入り口から中を覗いたら、ずっと向こうまで竹、また竹。まっこと、小さい頃の自分の遊び場のようやにゃあ。
「今、昼休みなので、もうすぐしたら誰か出てきますよ。」
向かいの方が親切に声をかけてくれました。もう少し、ゆっくり見ていたいと思いよりましたので会釈して、そのまま黙って竹を見ちょりました。竹を切る音、竹を割る音、竹を積み込む音、薄暗い工場からは機械の音に混じって竹の音が聞こえてくるがぜよ。
「どちら様ですか?」
ゆっくりと工場に現れた社長様は、祖父を知っちょりました。随分前に一度訪ねて来た事があるそうなのです。
ふと、振り返るとご年配の職人さんが、慣れた手付きでカンテキと呼ばれる小型ガス窯で竹の矯め直しを始められていました。どこかで見た事があるような、いや見た事のある光景、もしかしたら前にも、ここに居ったろうか?自分は小さい頃から祖父に連れられて日本で行ったことがない県は無いという程、各地を回り様々な竹製品、竹細工の会社や工房にお伺いしているそうです。ほとんど忘れちょりますが、時々どうしたものか初めてなのに懐かしく思える場所があります。寡黙な職人さんが何か小声で呟かれます。
「あんた、あの時の...」
そう聞こえた気がしましたぜよ、そして優しかった祖父の面影を感じたのです。自分にとって竹は一体何なのだろう?と思う時があります。全てであるようであり、そうでないようであり、ただ確かな事は自分の竹は、祖父の面影を辿る事。たった、それだけの事ながです。
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