図面竹の竹林 その2

図面竹の薬剤


清水銘竹店の清水さんが硫酸と硝酸を混ぜ合わせた薬剤を作っています。


「あのブルーシートの養生でっか?」


「まあ、仕事を始めたらすぐに分かりはりますわ」


そう言うて笑いながら今度は軽四トラックの荷台に積まれた袋から、何やら取り出しているのです。


図面竹の薬剤


図面竹を創るのに塗りつける薬剤は硫酸、硝酸を混ぜた液体に、今度は砥の粉や近くの山から集めてきた砂混じりの土など、適量混ぜて作られているのです。液体だけだと竹表皮に固定されにくく模様は付きにくいのですが、ある程度粘度を持たせた液剤は竹に付きやすく、砂混じりの土が竹表皮に細かいキズをつけて薬剤の浸透を助けると言うがです。この薬剤などは当然職人さんにより分量が違いますが、その時々の気候や、その日の仕事の竹などにもより、薬剤の分量は微妙に加減をされているとの事やったのです。


図面竹薬剤塗布用の道具


この薬剤を図面竹に付けていく道具が又面白いがです。3メートル用と4.5メートル用の二本が用意されちゅうのは3メートルの高さまでと、それ以上の高さとで、それぞれ道具をやり変えるからぞね。


図面竹薬剤塗布作業


低い場所に薬剤を付けるのに、わざわざ重く長い道具は必要ありませんし、高い場所には短い棒では届かないのです。まっこと薬剤塗布ひとつとっても、このようなノウハウがあるがやにゃあ。


図面竹薬剤塗布作業


見上げていると首が痛くなるような高いところまで薬剤を付けちょります。だいたい5メートルくらいの高さまでを目安にされよりました。けんど、よくよく作業を見ていたら、薬剤を塗布するというより、先端部分を叩いているように見えますぞね。


いやいや、更によく見ていたら叩いてから先端を竹表面に擦りつけているような動きです。実はこれが薬剤塗布の技のひとつであり、あとで図面竹の模様の付き方にも大きく影響されるようながです。薬剤には砂が混じっているとお話ししましたが、擦りつける事により砂で竹表皮にキズをつけているのでした。


図面竹薬剤塗布の道具先端


薬剤塗布用の棒の先端部分に使われちゅうのは、トラックの古タイヤを短冊状に切ったものながです。これなら弾力に富み、仕事もやりやすいように思いますが、このような道具一つできるのにも、恐らく試行錯誤があってから、ようやくこんな形に落ち着いているのだと思うのです。


図面竹薬剤塗布


薬剤が塗られた後の竹を拝見させていただくと、まだ乾いていないので赤土が塗られたように見えるのですが、このままの状態で11月以降まで置いておき伐採して更に加工を重ねるのです。同じような薬剤で、同じように作業しても、その時々の条件によって色づきの出来映えが違うというのは、長年の熟練の技も大自然には、やはり敵わないという事ながですろう。


図面竹の竹林にて清水さん


竹林から出てこられた清水さんの顔面マスクには液剤が飛び散っちょります。よく見たら帽子にも、上着にも、ズボンにも、劇薬を混ぜた薬剤の跡か残ります。なるほど、これだから、薬剤塗布の際の仕事では、暑いと言えども肌の露出を避けているのだと納得するのです。


京都の銘竹


「ここ見なはれ」最初に見てビックリしたブルーシートの理由を清水さんが教えてくれますぜよ。


京都の銘竹作り


キッチリ養生していないと、薬剤がこのように隣の竹にも飛び散ってしまうのです。このようになった竹は、職人の思惑と違う模様が付いてしまいます。竹表皮を使わない製品にするつもりの竹だと良いのですが、京都の銘竹は竹表皮が命ながです。この竹は残念ながら、表から見えない袖垣の芯等に使うしかありません。


京都の竹は茶道、華道の発展と関係が深く、竹への美意識が、もの凄く高い方が多いがです。そんな土地で鍛えられた竹文化だからこそ、一環して感じるのは職人さんの竹への愛情と、竹への誇りぞね。もっと早くから気づくべきやったがです。あの、しっとりした茶室で静かに湯気をたてる一服のお茶も、見事な手さばきで活けられよった一輪の花も、京都の美しい、この竹林から既に始まってちょったのではないろうか?ようやっと思い至って、しゃがみ込み、ずっと向こうまで続く竹の姿をまた眺めてみたのです。


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