さて、いよいよ竹の間を拝見させていただこうと部屋を出て廊下を歩いていきますと、ふと一つの衣装籠が目にとまるのです。一目でその美しさに心奪われ、そのまま立ち止まります。ほんの数年前まで同じような竹籠を編まれていた、熟練の職人さんの顔が知らず知らずのうちに思い浮んできますぞね。まっこと見事な造形ぜよ。
裏返してみても、この端正な作りに溜息がでるばかりなのです。もしかしたら当時としては普通であったのかも知れません、いやいや、毎日の生活道具として使われちょった事を考えたら、少なくとも特別なものではなかったと思うのです。
ところが、今となっては、このような用の美を感じるような竹細工には、なかなか出会う機会は少なくなっているように思うのです。この衣装籠を作られた職人さんも最初からこの腕前ではなかったはずです。毎日、毎日、この竹編み専門で続けていくうちに、このような一つの芸術品とも呼べるような作品の域に到達したと思います。
そう考えれば、このような竹が多用されて、人々の暮らしに密着し、必需品としてあった当時の技を、この現代に再現するというのは、なかなか難しい事かも知れません。それにしても、竹は本当に素晴らしい素材ですぜよ。竹表皮を薄く剥いだ「磨き」と呼ばれる技法であまれた竹肌は、渋い色合いに変色して自然なツヤに輝いています。一本づつ磨かれていたのは、竹の方なのか?それとも職人自身の腕なのか?たぶん両方ではないかと遠い昔を思いよったのです。
隣に置かれちょった柳行李も年代ものでしたぞね。柳は強くて通気性もありながら、しなやか素材ですので、ただ衣装などを入れて保管するという事だけでなく、持ち運びなどの運搬用としても昔は頻繁に使われちょった素材です。傷みやすい口部分には竹、角には革や布で補強されたものが多いのですが、こちらの柳行李も、今でもまったく現役として使用可能のように見えました。自分の子供の頃にはまだ見ることのあった、懐かしくもあり、古き良き時代を十二分に感じさせてくれたのです。
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