「竹虎さん、こりゃあ和紙にならんぜよ~」
土佐和紙製造会社の社長さんに、こじゃんと怒られよりますぞね。虎竹を和紙にするためには長期間水槽で水に浸けておき、柔らかくなった所で撹拌して繊維を取りだしていくのですが、今年の虎竹は、どういうワケやろうか?同じ期間だけ水に浸しておいても柔らかくなっていないのです。そこで、不思議に思われた社長さんから連絡を受けて、急遽、和紙製造の現場にお伺いさせてもらう事になりました。
「う~ん、いつもと同じ原料ながですけんど」
和紙製造会社の社長さんは、今回の原料はもしかしたら古い竹で、今までの竹は若い竹だったのではないか?古竹と若竹で性質は違うだろうから、このようになっているのでは?このような推測もされていたのですが、竹虎にある竹というのは全て3年竹、4年竹くらいが中心で、若竹は山での伐採自体をすることがないのです。
概ね竹の場合は、若竹では細工になりませんので、若い竹を伐採する事自体があまり無い事なのです。また、虎竹の場合には日本唯一の虎模様が成育して3年くらい経たないと、色づきがないという特徴もあり、若竹(新竹)が混ざる事は考えられません。竹の樹齢に違いはないということなら竹の個体差ですろうか?それなら、山により、竹林により性質は異なります。極端にいえば同じ性質の竹は一本としてなくて、竹自体の丸みの形にも違いがありますし、伸びや曲がり、粘りなど、それぞれ違いがあるがです。
ハッキリとした原因は分からずじまいではありますが、自然界では、その年々により果物などで良く言われる表年、裏年のように、竹自体でも表年、裏年と竹林単位で毎年繰り返しちょります。元気が良く、葉も青々として筍を沢山出す翌年には、竹に疲れがあり、黄葉が広がり筍の数も少ないがです。今回の竹につきましては、虎竹和紙にする竹ですから、全体からすると本当に極わずかな量でした。もかしたら、そのような虎竹の里の大きなバイオリズムの中で、少し硬い個性を持った性質の虎竹を持って行ったのかも知れません。
それは、ともかく、とにかく竹を細かい繊維質にせんとイカンぞね。そこで、土佐和紙工場から竹を一度持って帰ってきてから、木槌でひとつひとつ叩いて砕いていくがです。すでに柔らかくなっていて手で強く握ると、ボロボロッと崩れるような竹もあるにはあるがです。けんど、やはり全体的に見れば和紙に漉けるような状態ではありません。
丁寧に叩いて細かい筋状の竹繊維にしたところで再度土佐和紙工場ぜよ。こちらで加工していただき、ようやく和紙に漉ける原料となりました。今回の虎竹和紙は団扇を作ろうと思うちゅうがです。ここの和紙工場さんには日本で最小とも言われる和紙製造の機械があって、自分達のような少ないロットの注文にも対応していただけるがです。機械を使うと言うても、他の大型機械を使うて、何キロ、何トンというように、どんどん製造していくワケではなく、まっこと昔ながらの技術を使うた職人の手作り和紙と呼ぶに相応しいぞね。パイプからは近くを流れる仁淀ブルーの伏流水が溢れだしよります。まっこと、こんな綺麗な水が豊富にある土地柄だからこその伝統です。
小さい頃、母に連れられて何度かこの街に遊びに来た事があるがです。その度に、道路脇の用水路に透き通った水が、いつでもタップリと流れていて、なんと水の多い場所かと子供心にずっと思っていたがです。和紙作りの技がこうやって残り、大人になって自分がお世話になるとは、その頃には思うてもみなかったのですが、まっこと、高知の美しい自然に自分達は助けられちょりますぜよ。
ここまで来たら、あとはもう少しです。けんど、ここからも山あり、谷ありやろう。せっかく漉きあがった虎竹和紙での団扇づくりなので、長く使えて、多くの方に喜んでもらえる団扇を作っていくがです。
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