今日は久しぶりに228メートルの峠まで上がって行こうと思いよりました。日本唯一の虎竹の里は、焼坂の山々を背にして目の前には太平洋の広がる温かく、自然豊かな、まっことのんびりした所ぜよ。けんど、こんな静かな里は高知県なら別に何処にでもあるごくごく普通の田舎の光景が広がるのです。今は高速道路が伸びて国道56号線を通る車も少なくなりましたけんど、東西の行き来がこの道一本しかない当時でも、言われなければここに虎模様の不思議な竹がある事など誰も気づかずに通り過ぎてしまう、そんな何の変哲もない所ながです。
けんど、この山のちょっと風変わりな所に気がつく人もおられますぞね。それが歩き遍路の方ながです。ご存じのように四国には八十八カ所の霊場があり、1200も続く遍路の旅は時代と共に変わってきちょりますが、昔の人々が歩いたと同じような山道を徒歩で回られる方もいるのです。そんな方々が、焼坂の遍路道を登っていく道すがら、必ず目にしていたであろう虎斑竹。長い歴史の中で虎竹達自身も、さぞ多くのお遍路さんを出迎え、そして見送って来た事かと思うがです。
ちょうど今日のように日差しを優しくさえぎり、サラサラと心地よい葉音で出迎えたろうか?その時代の虎竹の里の遍路道は、まさに獣道と言うても良いような急斜面を曲がりくねって上がっていく、頼りないくらい細い道。ゆっくり竹を眺めるような余裕は、きっと、なかったろうか?ただ、一つ気づく事があったかも知れないと思うのです。
それが、この焼坂峠ぜよ。峠までは竹が、あちらこちらに見えているのにここからの下り道には山の麓まで歩いてみても竹は、ただの一本も見つけられないのです。不思議と言えば、こんな不思議な事はないがです。峠から安和の集落を見下ろせば広くはないものの緑の田畑が広がり、その向こうの遠くから南国ならではの海風が吹き上げて来そうに感じるがです。この景色を眺めながら一息ついた旅の人達は、まだまだ続く先に事を思うて足早に歩いていったことですろう。
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