一見何の変哲もない籠を手にして職人さんが話しだしましたぜよ。
「ワシの編み込みは凄いよ。何せ、水も漏らさない...」
一瞬、耳を疑いましたけんど、確かに水が漏れないと言われちょります。こじゃんと腕の良い熟練の職人さんがしっかり編み込まれたゴザ目編みの籠には間違いないのですが、水が漏れないとは一体どういう事やろうか?
ところが、怪訝そうな表情の自分に、職人さんはそれなら論より証拠と言わんばかりそのまま水道の蛇口をひねってホースで水を直接籠に入れだしたではないですかっ!?
「ええっ!ええっ!?大丈夫ながですか...」
慌てる自分には、お構いなしですちや。平気な顔をして水を籠の中に流し込んでいくがです。
「ほれっ...」
職人さんから受け取った竹籠には確かに水が入っちょります。
「むむむ...」
この竹籠は二重編みになっていました。けんど、それだけで、これだけの防水性があるわけはありません。もしかしたら、これは古より伝わる秘伝の技か...!?そういえば山深い谷間に、その緻密な編み込みから水が一滴も漏れないほどの竹編みをする伝説の籠師と呼ばれる竹芸師の話しがあったような、なかったような...(笑)
底を確認してみますぜよ。おおっ、やっぱり水は染みこみすらしていません。これは、凄いにゃあ。......と、まあしかし見ただけではちっくと分かりづらい籠のトリックですが、持ってみるとこの籠の硬さや厚みの感触で何となく分かってきます。
「そうよ!二重編みしている中に竹筒を入れているのだよ!」
見た目には普通の花籠のようにしか見えませんが、竹筒の内側と外側に編み込みをして筒を見えないようにしちゅうがです。中に入れる竹筒も表皮を削って出来るだけ薄くしてある事ですろう。けんど、それと知らない方だったら水を入れても漏れない事にビックリ仰天されるそうながです。愉快そうに大笑いしながら、こうやって若い人達を驚かせて楽しむのだと話す職人さん。初めての方でしたら、この籠が二重編みになっている事も分からないかも知れませんので、水の入った竹籠を見ながら随分と悩むのかも知れませんにゃあ。遊び心を持って過ごされる職人さんにまっこと(本当に)今日は一本取られましたぞね。