来月あたりに放映予定の、とある人気バラエティ番組で、竹工芸家の田辺小竹さんが取り上げられる事になったがぞね。今までは、このようなテレビ番組にはあまり出演される事はなかったそうですが、今回は全国放送で長時間に渡って田辺さんを取り上げて頂ける事と、やはり制作に関わる方の人柄や熱意で引き受けられたそうですぜよ。
テレビにしろ雑誌などにしろ取材などと言えば自分達の場合には、今までお断りするなど考えた事さえなく、全て来る者は拒まず(笑)でチャレンジしよります。その最たるものが一昨年の「ザ!鉄腕!DASH!!」ですろう。あの夏は会社や職人、ひいては地域の皆様や地元高校の方々まで巻き込んで、まっこと大変な思いをさせてしまいましたので、まあ、何でもやり過ぎるのは困りものですが、田辺さんのそんなお話をなるほどと思いながらお聞きしていました。
番組などによっては、それぞれ伝え方や見せ方があります。竹芸家の方ですので竹への思いや技へのこだわりに焦点をあわせて、多くの方にお知らせできるのであれば良いのですが、もしそうでない場合はお断りする事も当然あるがですろう。ただ、今回の番組では竹の事を忘れかけた方の多い今の日本で、少しでも竹の美しさや心地よさ等思い起こしてもらえる、こじゃんと(とても)良い機会になるものと期待しちゅうがです。
そんな訳で今回番組の収録のために東京から撮影の方々が来られます。このような取材の方々のお話は本当に楽しいし気付きもいただきます。それは、やはり全国各地に行かれちゅうので楽しい話題を良くご存じですし、情報感度が鋭いので自分達の良い所を、それとなく教えてくれますちや。虎竹の里にずっといたら分かりにくくなってくる。ここでは普通やったり、当たり前の事やったりに興味を持たれます。そうやって面白がってくれる事は実は全国の他の方も知りたがって頂く事で、自分達が見逃していた魅力であったりするのです。
さて、虎竹の竹林の撮影に急勾配の山道を登っていきますぜよ。しばらく行って、虎竹の竹林が目の前に広がる辺りでは、おおっ!これはっ...と言う顔をされています。竹をいつも見ていたら別に普通の昼前の陽射しですが、恐らく取材の方々には、生まれて初めてご覧になる竹林であり、もしかしたら、どこかの名勝地にも勝るとも劣らないような、そんな光景にきっと見えているのだと思うがぜよ。
田辺小竹さんは実は自分と同じ四代目ながです。竹芸家の家に生まれて竹に反発した時期があるのも同じ。けんど、自分のような田舎の竹屋とは違うてなんと世界を舞台に大活躍されゆう竹の芸術家なのです。竹の世界では代々続くサラブレッドの血筋と言うてもエイかも知れません。何か良いように聞こえますが、その運命を背負うて竹に向き合うのはこじゃんと覚悟のいる事やったと想像しちょります。
そんな思いを感じる作品をいつくか拝見させてもらってきました。ちょうど一年前には岐阜県立美術館で「水の恵み」と題された、まっこと壮大な作品を拝見させてもらって本当に感激した事があるのです。この山の虎竹達が細い竹ヒゴとなり何万本と使われちょった。そう、この今ここにある丸い竹が、真っ直ぐに伸びる硬い竹が細く割られて一本一本の竹ヒゴがまるで命を持ったように、自分達の意志で繋がり、しなやかにくねり、あふれるようでした。田辺小竹さんと言うアーティストの手を通して竹がモノ言うそんな迫力ある造形としてあるかのように思えましたちや。
竹林では、虎竹の当たり前の事をお話させていただきます。虎竹の里にある竹は何故か不思議な虎模様が付き、この竹を色々な所に移植しても美しい虎模様が出来ないのですが、虎模様が出来る原因もハッキリ解明されていないのに色づきしない理由が分るはずもなく、科学がこれだけ進歩したと思える現代でも自然は未知で偉大だと、お話をさせてもらうたびに感じるがです。
虎竹の事だけでなく竹そのものの話題になりますが、竹がわすが3ヶ月で十数メートルの親竹と同じ高さに成長するとか、竹林全体が天然の鉄筋コンクリートのように竹根が張り巡らされちゅうとか、どれもこれも普通の事のようではありますが、取材の方はご存じないようで、こじゃんと驚かれるがです。
それにしてもテレビ撮影は終わっているものの、カメラマンもディレクターの方も、なかなか帰ろうとは言いません。ちょうど午前の日差しが段々と太陽が高くなるにつれ竹葉の間から差し込み、温かな日だまりを作るようになる頃でした。はじめての方には本当に何故かしら優しく安らぐ、別天地のように感じていただきよったのかも知れませんちや。
ようやく山から下りてきて、工場に戻ってきたのは随分と時間が経ってからの事やったのです。さきほど竹林で見て頂いた虎竹を加工する現場をご案内しました。虎竹は専用に設えたガスバーナーの窯で熱して油分を出し、その天然油分を利用して美しい竹材に拭き上げていくのです。竹屋にはガスや炭火など火抜き用にしろ、熱湯を使う湯抜き用にしろ専用の窯が必要です。自分も小さい頃からずっと見ていて、実は何が珍しいのかどうして驚かれるのか分らない事がありました。ところが、やはりこのような窯は一般の方は誰も見た事がなく、さらに日本唯一の虎竹に使うというのですから、これほど価値があるモノはないと最近では思うのです。
それを教えてくれたのは、やはり今日のように遠くから来られた方々だったのです。