そもそも自分などは田舎者ですし国内旅行ならまだしも、海外にまで観光の旅行に行くというような事は、ほとんど無いがです。今回どうしてもニューヨークに行きたくてお伺いしましたけんど、実はその前にも一度だけ、もう18年も前の事ですがこの大都市に行った事があるのです。その時にも英語が話せないし、飛行機の乗り継ぎなども不慣れやし、どうしようか不安だらけ、今みたいにインターネットもないですので、まっこと手探りで恐る恐る行ったと言うのが正直なところぜよ。
公衆電話のかけ方一つ知らんかったぞね。今思えば良く、あんな状態で行って帰ってこれたにゃあと思うがです。けんど当時は竹の明日という事について、今以上に不安と迷い、そして焦りのような気持ちが一杯やったぞね。お陰様で100年続けて来させていただいちゅう自分達の竹の仕事も、これからの事が真っ暗闇で、まったく見えない状態やったのです。
竹がどんどん忘れられていく、竹が人の役に立てる事は何やろうか?思い悩む中で、たまたま日本唯一の虎竹を見学に来られちょった、アメリカでバンブークラフト作家として、ご活躍されていた、ナンシー・ベスさんという方を頼り、もしかしたら何か答があるかも知れないと思うて、ニューヨークに行く決心をしたのは、そんな、止むに止まれない気持ちからやったのです。
ベスさんのご家族の暮らすアパートの目の前には、こじゃんと美しい公園があったがです、後になってから知りましたけんど、ワシントン・スクエア公園(Washington Square Park)という、マンハッタンでも有名な公園の一つぜよ。ちょうど滞在中は天気にも恵まれ、紅葉の季節を迎えた美しい並木が広がります。すれ違うお洒落で楽しそうなニューヨーカーの皆さんを横目に、落ち葉を踏みしめながら歩く足取りは重く心は全く晴れませんでした。
並木を抜けた中央には広場があるがですが、ここで、ビックリするものを見る事になります。驚くという気持ちよりも、不思議な気持ちと言うたらエイですろうか、それは大きな白いアーチ型の門やったがです。
「どこかで見た事があるにゃあ...?」
近くのベンチに腰掛けて考えます。
サクサクッ...サクサクッ...。音をする方を見たらリスでした。大きな樹木に囲まれた広い公園らしく体格も立派なリスがおります。訪れる市民の皆さんに可愛がられちゅうがですろう、怖がることなく近寄ってきて、まっこと人なつっこいがです。その中の一匹が口を小刻みに動かして浮かない顔で座る自分に教えてくれた気がしましたぜよ。
そうぜよ、思いだしましたちや、あの絵じゃあ!自分は若い頃には絵画を鑑賞するなど高尚な趣味も何ちゃあなかったですが、ある時、街中を歩きよって、こじゃんと惹かれる一枚の絵があったがぞね。どうしても気になって今まで買うた事もないアートポスターを手にしました。32年前の事ですけんど、ポスター買ったのは後にも先にもこの一枚だけ。その一枚はレッドグルームスという作家のもので、描かれているのが、紛れもない今自分の目の前にある凱旋門やったがです。腰掛けたベンチのまま腰が抜けました。
何とも不思議な縁、こういう事が起こるがやにゃあ。前からベスさんと会う事も、この公園に来る事も決まっちゅうがやったら、ここに、きっと何かあるろう、あるに違いない、がぜん、元気になって、この作家の方も収蔵されちゅうと言う、メトロポリタン美術館(The Metropolitan Museum of Art)に2日間通う事になるがです。
さて、それでどうなかったか?メトロポリタン美術館は、たまげるくらい広く、圧倒されっぱなし。けんど、とうとうこの作家の作品ひとつ探す事はできませんでした。まあ、その頃の思いは今回のニューヨーク動画でお話しちょりますので、お時間ありましたらご覧いただきたいがです。
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