虎竹の里、お盆の夜

安和


お客の夜の帰り道、薄暗い街灯を頼りに歩きよったら、知らず知らずのうちに足が向いちょりました。小さい頃には、ここにの納屋には赤牛が一頭おったにゃあ。いっつも口をクチャクチャさせて、どこか遠くを見よったぜよ。


こんな小さな集落ですけんど、いつも何か活気のある魚屋さんがあったがです。新鮮な魚の香り言うたらエイろうか?もちろん生臭いのですが、嫌なニオイではなく、むしろお刺身でも食べたくなるような、そんなお店やった。角にあったのはタバコ屋さん、物静かなおじさんが一人で座っちょった。いつもテレビがついていて、何故か自分が通りかかるたびに野球をやりよった気がする。


自分の影


お盆は帰ってきちゅうがですろう?そしたら、ここにも来ちょりますか?おじいちゃん。今はもう誰も住んでない空き家になっちゅう古い借家、植え込みまで、あの頃と変わってないきに不思議ちや。ここの建物がまだ残っちゅうことに、まっこと感謝ぜよ。裸電球しかないような質素な部屋やったけんど、祖父がおって、祖母がおって、おばちゃんがおった。いつも皆が笑顔やった。どうして今夜はここに来たがやろう。ああ、今からどうせんとイカンか教えてくれゆうがやにゃあ。


ふと下をみたら、ドキリとする。その影に、あの日の祖父がおる気がする。


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