潮風と竹と虫と

虎竹の里


虎竹の伐採は旬の良い時期にしかしていません。これは竹の品質管理の上で、こじゃんと大事な事ながですが、防虫という意味あいもあっての事ながです。竹を虫が食うと言う...こう聞くと意外な感じがされますろうか?実はご存じない方も多いのかも知れませんぞね。けんど、竹は油抜きの仕事をはじめただけでも甘い香りが漂うて、すぐに分かるくらい糖質の多い植物ぞね。虫が食べたくなるのも分からなくもないがです。


竹を食う害虫にはチビタケナガシンクイムシという、黒っぽい小さな虫とカミキリ虫を小型にしたような虫がおりますぞね。このカミキリには二種類あって虎模様のタケトラカミキリと、赤色で工場におったらすぐに目立つベニカミキリがおります。これらの虫が工場に沢山立てかけてある竹材を食う事もありますが、一番困ってしまうのが竹製品にした後に虫が食う事ちや。


ところが昔の台所で毎日使われよった竹笊や竹籠では、日常的に動かすし、お湯もかかるし虫が入る暇がなかったのか、意外と虫に食われるものは少ないように感じちょります。戸棚にしまっておいたものとか、店に長い間展示してあるものとか、そんな竹細工に白い粉が落ちていたら要注意ですぞね。小さい穴ならチビタケナガシンクイムシ、大きければカミキリのどちらか、とにかく見つけ次第に熱湯をかけるなど対処をオススメしますぜよ。


安和の浜辺


さて、先日はじめて遠く県外からお越しになられた竹職人さんがおられました。今の時期は竹が少ない時にながですが、それでも、普通の方やったら見た事のないような竹が工場には山積みです。けんど、一回りご覧になられて「竹が虫に食われているのが少ない...」こう言われるがです。もちろん竹虎の竹達は旬を選んで伐採しよりますので、虫は少ないとは思うがですが、それでも虫の入る竹は入ってしまうし、竹も人も大いなる自然の一部ですきに、ある意味、自然の虫が入るのは仕方の無いことやと思うちゅうがです。むしろ、薬剤などを多用しコントロールしようとする事が、不自然かも知れんと思うて自分はあまり好きではないがです。


虫に食われている竹が少ない...。さすが竹職人さんは見ゆう所が、普通の見学者の方とは違うにゃあ。そんな事を思いよりましたら続けてこんな話しを聞かせてくれるがです。


旬の悪い時の竹を使う場合の防虫の心得を父親から授かった。それは、竹に海の水を使うこと、これが自然の海水でないといけないそうかながです。人が人工的に作るものでは塩分濃度などの違いで竹に良くない。ここまで聞いて、先日の知恵や自然の竹と海の水の関係に、まっこと興味津々となって聞きよりました。


そしたら、竹虎の工場は海の近くにあって潮風が吹きよりますろう。これが虎竹の成育そのものにも影響を与えているだろうけれども、伐採して、製竹された竹を保管している時にも、自然の防虫として役立っているに違いない、そう言うてくれたがです。


虎竹の里は、たったの間口が1.5キロしかない谷間で、すぐ目の前には太平洋が広がっちょります。台風や災害で小さい頃から海の怖さも知っちょりますが、思うたら江戸時代にも、虎竹はこの海から船を使って運ばれて、山内家のお殿様にまで献上されて行ったし、100年前、初代宇三郎が虎竹を探してやってきたのも、この海。海風が虎竹の里の山々に吹上て日本唯一の不思議な虎模様を作るひとつの原因だと言われる大学の先生もおられます。


そして今度は、この海が竹の虫の予防になっている...?この静かな海の恩恵に、またひとつ感謝したい事が出来ましたぜよ。


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