これは、こじゃんと美しいウケに出会うたがです。ウケとは「ころばし」とも呼ぶ事もありますし、地方によっては「うなぎぽっぽ」とも言う事もあるそうですけんど、鰻を捕るための筒状に竹編みされた道具の事ですぞね。けんど、自分達が子供の頃に使うて鰻を捕っていたウケと比べたら、竹ヒゴの緻密さ、形の華麗さ、まっことこれは芸術品の域ぜよ。これに餌のミミズを入れて、川に漬けて重い石をのせる...。ううん...考えるにゃあ、よう使うろうか...?
竹虎でご紹介しちょりますウケは地元の職人が編む、自分達が小さい頃にも実際に使うて鰻を捕りよったものと同じものぞね。当たり前に思いよりましたこの竹細工も、以前、大阪から研究者の方がビデオ撮影に来られちょりましたので、全国的にも編まれる方は少なくなっちゅうがですろう。まあ、そんな竹ヒゴも粗く、まさに鰻を捕るための漁具としてずっと昔から製作され続けてきたものですきに、ちっくと乱暴に扱われる事もありますし、真新しい竹の時にはどうも鰻の入りが悪いので、田植え前の田んぼの泥の中に沈めてわざと汚したりもしよった。
けんどそうやにゃあ、こうやってお話させて頂ながら遠い記憶を呼び覚ましよったら意外とあれですにゃあ。たとえこんな素晴らしい匠の技で編まれたウケであったとしても、自分達が鰻のシーズンには連日使いよったウケであったとしても川に入って仕掛けをしだしたら同じかも知れんぜよ。あの川のせせらぎと、川の香り、ちっくと冷たい水の感触。鰻の通り道を推し量りながら川底を探り、ウケを沈めちょってから少し滑りやすい川底の石を集めてウケにのせる。皆で川から上がって焼坂に沈みかける夕日を背に、明日の朝の釣果を思うてドキドキしだしたら、どうやろうか?
子供の頃のあの自然の中の大興奮は、今思い出しても素晴らしい経験やったですけんど、道具がこれほど違うたら鰻漁自体が変わっちょったかも知れん。もっとウケにふさわしい漁を追求したろうかにゃあ。いやいや、どうやったろうかにゃあ。朝靄の川に草をかきわけて行ったら、驚いた水鳥達が音を立てて飛び立っていくがぜよ。ウケを川底から引き上げてザザッーーーと水を抜く、上に下にウケを動かしてみた時に感じるズシリとくる感触。今でも手が覚えちゃある、あの鰻が捕れた時の嬉しい重みは、どんな道具でもきっと同じかも知れませんぞね。
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