渡辺竹清先生の笑顔

渡辺竹清先生


渡辺竹清先生の工房には近くを通りかかる度にいつもお邪魔せさていただきよりますぞね。まっこと急にお伺いする事も多々あって、ご高名な竹芸家の大先生やにもしかしたら、こじゃんと迷惑をかけちゅうかも知れません。


けんど、ここの工房に来たら、たとえ先生が仕事はされていなくとも凛とした空気感があるきに、どうしても引き寄せられてしまうがぞね。竹と真っ直ぐに向き会うちゅう人だけが放つものがあって、自分が引き寄せられるのと同じように竹を志す人が自然と集うてくる幸せな場所やと感じちょります。そして、かっては祖父がやってきて、同じように座る、同じように話す、同じように作品を手にした。一緒に工房に来させて頂いた事は一度しかないけんど、そんな残り香のような面影を感じる事のできる大好きな空間ながです。


さて、今日は時間があまりないですきにご挨拶だけで早々に引き上げさせて頂こうかと思いよったら「ああ、これ持って帰り...」持たせてくれたのは虎竹の立派な網代花籠ながぜよ。「おじいちゃんが持ってきてくれた虎竹で編んだものだから」まっこと、こんな高価なものを自分のような者に感極まって言葉にならんがぜよ。


けんど今まで何度こんな事があったろうか?先生は自分がお伺いするたびに昔を懐かしみ祖父を思うてくれて、自分にこうやって作品を渡してくれるがです。そして、その都度考えるのは祖父の大きさ。「竹に、しっかり取り組んでいるな...」渡辺先生は、そうやって優しく声をかけてくれますけんど、先生や祖父、そして父の足元には、全然及ばんがです。ただ、竹の先人の皆様がやられて来た竹の道を歩ませてもらうだけ。


この花籠は、虎竹を見事な網代編みに仕上げちゅう逸品ですが、中のオトシを拝見させて頂いて又ビックリ。こりゃあ凄いがぜよ!なんと塩月寿籃さんの手がけた漆塗り。竹虎にも祖父にも縁の深いお二人ぜよ。両方を手にしたら胸が熱くなって込み上げてくる。ずっと我慢しちょって一人になって思いっきり声をあげて泣いたら、また、走りだすがぜよ。


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